或る夏の話。それは、或るおんなのこの話。

〜舞台『夏の砂の上』を観て〜

優子のような人物に必ず憧れてしまう。

わたしのなりたい“特別なおんなのこ”がそこにいた。

幕が上がると、そこには茹だるような暑さの長崎。

田中圭さん演じる小浦治と、西田尚美さん演じる妻の恵子。

九州弁も相まってゆったりと流れる空気の中に、そこはかとない緊張感が漂っている。

すると、そこに流れ込んでくる全く違う空気。

治の妹・阿佐子と、その娘・優子が来たことで持ち込まれる都会の空気だ。

ある種の硬さや冷たさを感じる標準語で話す阿佐子のスピードそして圧たるや。

阿佐子役の松岡依都美さんの芝居が圧巻だった。

阿佐子が優子を半ば強制的に預けたことで、治と優子の不思議な一夏が始まる。

優子を演じる山田杏奈さんの声がとても良かったことが印象に残っている。

張りがあるけれど、どこか上擦っているような声。

お互いに好意を持っているであろうバイト先の先輩の前で、同級生の「花村さん」との話をうっとりとする、あの様子。

あの優子の口調。

日常を打破したい、あの感じ。

全ての人の愛が自分に向くと信じて疑わないような姿。

精一杯の背伸びで、自分は大人と渡り合えるんだぞという無言の主張をしている姿。

つんけんして、生意気な姿。

そんな中、まだ大人になりきれず、甘えが出る瞬間。

優子に集結された、あの年頃のおんなのこにありがちな姿。

とても愛おしかった。

優子はカナダに行っただろうか。

あの後、再び治に会う機会はあっただろうか。

優子が“特別なおんなのこ”になることが出来たのは、あの一夏の間だけだったのかもしれない。

それさえも愛おしく思うのだった。

またね。

ミワ

桜田実和

kikusukuライターのミワです。
お芝居と喫茶店が好きな、ハスキーボイスの舞台人。
そこそこのまともさと、たまの異常さを買われて、東のボルゾイという劇団にいます。
岡崎京子さんと吉澤嘉代子さんの描く“特別なおんなの子”になりたい。


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