|ひとことテツガク第4回「我思う、ゆえに我あり」
この記事を書いたのは・・・
kikusuku編集長のひなたです。演劇とテレビドラマと甘いものと寝ることが好き。立教大学大学院 現代心理学研究科・映像身体学専攻・博士前期課程修了。
ひとことテツガクとは、哲学の「ひとこと」を紹介し、分かりやすく読み解いていく企画。第4回のテーマはこちら!
「我思う、ゆえに我あり」
ルネ・デカルト『方法序説』
デカルトというフランスの哲学者の言葉です。哲学はよく知らないという人でも、一度は耳にしたことがあるかもしれません。テーマ選びに迷いつつも、せっかくなら馴染みのある言葉にしよう!と選んでみました。一体どのような言葉なのか、一緒に考えていきましょう!
「我思う、ゆえに我あり」ってどういう意味なの?
「我思う、ゆえに我あり」
今の言葉遣いで言い直すなら「私は考えている、つまり私は存在している」といったところでしょうか。
私が初めてこの言葉を聞いた時の印象は「まあ、そりゃそうよね……」でした。だって、今こうして文章を考えている私は確かに存在しているから!
でもこの言葉、裏を返すと「私が存在していると言える理由」を説明していることになりますよね。
それは、デカルトという人が「私が存在しているという確実な証拠を探していた」つまり「私は本当に存在しているのか、疑った」ということになります。
あなたは、自分の存在を疑ったことがありますか?どうしたら「私はここに存在している」と疑いなく証明することができるのでしょうか。
「全てを疑ってみる」
突然ですが、私はテレビドラマ・映画の「SPEC」シリーズ(※1)が大好きです。戸田恵梨香さん、加瀬亮さん演じる刑事が、“SPEC”と呼ばれる特殊な能力にまつわる事件に対峙していく物語。当時中学生だったのですが、部活を早抜けして映画の公開イベントに行ったのを覚えています!(初めて同じ映画を2回映画館で観たなあ……。)
その「SPEC」シリーズのキャッチコピー(※2)が、
「真実を疑え。」
なぜか強く印象に残っている言葉です。実は、デカルトの言葉にも通ずるキャッチコピーなんじゃないかな、と今では思っています。
真実、当たり前だと思っていること。
例えば、地球には重力があって、あなたは椅子に座っていて、隣の席にはクラスメイトがいて、目の前には机が置かれていて、これまでも今も、息を吸って吐いている。
……本当に?本当に、そうなの?
今、私の隣には人が座っていますが、それが本当だと、一体どうしたらあなたに証明することができるでしょうか。
写真を撮って送る?今撮った写真じゃないかもしれない。加工した写真かもしれない。
誰か他の人に証言してもらう。その人が嘘をついているかもしれない。
隣に座っている人と、あなたとで電話をつなぐ!今度は、私がその人の隣にいるかどうか、証明できなくなる。
どんな手を尽くしても、揚げ足を取られてしまいそうですね。
そもそも全部、私の妄想かもしれない。
本当は私の隣に人は座っていなくて、隣の「この人」は、どこにも存在しないかもしれない。
いま私の見ている世界は、本当に存在しているんだろうか?私が見ているこの世界と、あなたが見ているその世界は、同じ一つの世界なんだろうか。なんだか、自分のことすら信じられなくなってきます。
「真実」ってなんでしょう?当たり前って、実はぜんぜん当たり前なんかじゃないのかもしれません。
ここで話を戻しましょう。
「我思う、ゆえに我あり」
ここまでこの記事を読んできた今なら、この言葉が少し違って見えてくるかもしれません。
私の隣には本当に「人」が座っているのか、目の前に置かれている物体は本当に「机」なのか、そもそも目の前に机は存在しているのか、全部私の妄想なんじゃないか、なんて考えている「私」がここにいる。ありとあらゆることを疑って、信じられなくなっても、私はこうして考えています。
では、なぜ考えることができるのか?それは「私」が存在しているから。私は考えている。つまり、私は存在している!
それだけは、疑うことができません。
おわりに
「真実を疑え。」
そう思っている自分の存在だけは疑うことができない。自分の存在を信じないと、疑うこともできないから。
不思議ですね。疑うことで、信じられるなんて。
「疑う」と聞くと、なんだかマイナスのイメージがありますが、疑ってみて初めて分かることもあるのかもしれません。
デカルトは全ての存在を疑いながら、全ての存在を誰よりも信じようとしていたのかしら、なんて考える。
考えているから、どうやらわたしはここに存在しているみたいです。
我思う、ゆえに我あり!
【注釈】
(※1)正式名称を「SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」
長い!!!!!!放送当時の私はこの長いタイトルを暗記して喜んでました。ちなみに今でもばっちり覚えていますよ!テレビでの連ドラから始まり、2本のSPドラマ、3本の映画が公開された一大シリーズです。最近でもスピンオフ作品が製作されています。
(※2)「真実を疑え。」という言葉は、ポスターのキャッチコピーだけでなく、作中でも重要な台詞として登場していました。プロデューサー運営の公式Twitterにて、こんな呟きを発見したので載せておきます!