『夏の砂の上』作者・松田正隆さん特別インタビュー#4 演劇を30年間続けられた理由とは

kikusukuでは「夏の砂の上」の上演・戯曲本の発売を記念して、本作の作者である劇作家・演出家の松田正隆さんにインタビューを行いました。(全4回連載)これまでのインタビューはこちら。

『夏の砂の上』作者・松田正隆さん特別インタビュー#1「長崎という町の感触を……」

田中圭、西田尚美、山田杏奈らが出演する舞台『夏の砂の上』が、2022年11月より世田谷パブリックシアター他にて上演されます。kikusukuでは作者である松田正隆さんにお話…

『夏の砂の上』作者・松田正隆さん特別インタビュー#2「長崎」を描き続ける必然性とは?

田中圭、西田尚美、山田杏奈らが出演する舞台『夏の砂の上』が、2022年11月より世田谷パブリックシアター他にて上演されます。kikusukuでは作者である松田正隆さんにお話…

『夏の砂の上』作者・松田正隆さん特別インタビュー#3「小説を書いてみようとしても書けなかった」

田中圭、西田尚美、山田杏奈らが出演する舞台『夏の砂の上』が、2022年11月より世田谷パブリックシアター他にて上演されます。kikusukuでは作者である松田正隆さんにお話…

ついに最終回となる#4では、20年以上にもわたって戯曲を書き続けてきたことについてなど、ご自身の演劇人生を振り返りつつお話を伺いました。

#4「what」より「who」が大事―劇作家・演出家の松田正隆が演劇を30年間続けられた理由とは

松田正隆さん(撮影:ひなた)

――松田さんは30年間劇作家を続けていて「辞めたい」と思ったことはないんですか。

松田正隆さん(以下、松田):ないよ。それを(発売になった戯曲本の)あとがきに書いたから、買って読んでください(笑)……いや、なんでだろうね。やり始めたことよりも、やり続けていることの不思議さを感じたよね。

――ご自身でも分からないものなんですか。

松田:色んな要素は言えると思うけど、そりゃ食いぶち、生活だったから。でも50過ぎて、ここ(映像身体学科)で教えるようになって、極端に戯曲を書かなくなった。それは教育者として、演劇を学生と一緒につくっていくっていう方向に行ったっていうことなんだけどね。だから劇作家って肩書はありながらも(ここ10年)実質は教員だった。

――映像身体学科(※1)に赴任される以前はどうだったのでしょうか。
(※1)松田さんは2012年より立教大学現代心理学部映像身体学科の教授を務めています。この学科はkikusukuメンバーの出身学科でもあります!

松田:30歳から50歳までの20年間辞めずに続けたのは「演劇つくってください」っていうオファーが、1年に1回くらい来たから。つくり続けられる限り、生きる限り、活動としてやってきた。

――まさにライフワークですね。

松田:演劇をつくらなくなると「私はなんだ」って(なってしまう)。重要なことなんですけどね。だから、そのことをテーマにしています。<what>っていうよりも<who>の方が重要っていうか。

(撮影:ひなた)

――<what>と<who>の違いはなんでしょうか。

松田:<what>は「劇作家である」とか「教員である」とか、あなたは「何(をしている人)」ですかって聞かれた時に答えられること。<who>が指すような「誰に」の方を表現してきたって感じがします。<who>が大事。

――<what>ではなく<who>が大事。

松田:<what>の「あなたは何をしている人」っていうのを全部剥ぎ取って、人間関係がどう成り立つのかっていう。集団で創作する時、割と重要になってくる。要するに、教員とか、演出家とか、俳優とか、色んな属性もありながら、いや、それをなくして平等に、ってことじゃないんですよ。その属性もありながら、常に<what>と<who>のせめぎ合いというか。(そのせめぎ合いが)どうなるのかっていうことを表現したい。それと創作プロセスも、そのせめぎ合いをずっと考え続けるっていうことなのかな。

――そういう<who>や<what>とのせめぎ合いへの興味みたいなものが、ここまで演劇を続けて来たことに繋がっているんですね。
興味は移ろうものだと思うのですが、その興味はずっと一貫しているのでしょうか。

松田:演劇を創ってると「何?」ってなるんですよね。僕は何を見ているんだろうとか。他の人の作品でも、別に演劇じゃない芸術作品でも。「この感情、わざわざ説明されてもな」っていうのは論外なんだよね。それを全部失くすって否定的になったらダメなんだけど。……得体のしれない感情が生まれるってことかな。

――「得体の知れない感情」ですか。

松田:作品を観てると「この感情は味わったことないな」ってなる時がある。上演のそれを、ずっと追い求めてきてるって感じがしますけどね。

――戯曲を書いていて苦痛だなと思ったことはないですか。

松田:ありますよ。しょっちゅうですよ。「楽しくねえな」みたいな。なんでこんなこと何回も何回も書いてるんだって(笑)

――それでも書き続けるのは、<who>の探求というか。

松田:そう。面白くなるからだよ。100の内95くらいは面白くないけど、後の5は面白い時もあるわけじゃん。95はルーティーンだけど、5が場外ホームランみたいなこともあるからさ。

<終>


【編集部のひとこと】

ひなた:物事を始めるよりも、継続することの方がずっと難しい。私も「who」を追い求めながら、このkikusukuという場所を続けていきたいです!貴重なお話をしてくださった松田さん、最後までお読みいただいたみなさん、ありがとうございました。

ミワ:松田さんの足元にも及びませんが、演劇をやってきて10年が経ちました。経ってしまいました。(震)演劇に対するスタンスや関わり方などは長く続けるうちに少しずつ変化しつつも、松田さんのようにこれからもずっと続けていきたいと思いました。
にしても「ここで勝負をかけねば」となったというお話(#2を読んでね!)をされた松田さん格好良かった……!!
読者の皆様、全4回もお付き合いありがとうございました!

☆kikusuku公式Twitterをフォロー+以下のツイートをリツイートすると、抽選で3名様に今秋発売された文庫本『松田正隆Ⅰ 夏の砂の上/坂の上の家/蝶のやうな私の郷愁』をプレゼントいたします。さらに、引用リツイート+記事のコメントをつけてツイートすると当選確率が2倍に!
ご応募お待ちしております!【応募〆切:11月25日(金)23:59まで】※ご当選の方のみご連絡いたします。

〈公演情報〉

『夏の砂の上』

【作】松田正隆 
【演出】栗山民也

【出演】田中圭 西田尚美 山田杏奈
    尾上寛之 松岡依都美 粕谷吉洋 深谷美歩 三村和敬

【日程】
東京公演は2022年11月3日(木・祝) ~ 11月20日(日)、世田谷パブリックシアターにて上演。
その他、11~12月にかけ兵庫・宮崎・愛知・長野をツアー予定。

チケットの詳細は公式HP・SNSをご確認ください。

【公式HP】  https://setagaya-pt.jp/performances/2202211natsunosunanoue.html
【公式Twitter/Instagram】 @natsunosunanoue

☆戯曲が収録された文庫本も発売中

『松田正隆Ⅰ 夏の砂の上/坂の上の家/蝶のやうな私の郷愁』
早川書房/【価格】1,800+税

日本現代演劇の旗手、松田正隆の代表作3作を初文庫化。日常の裂け目や静かな台詞の行間から、心の渇き、生と死、都市の記憶が滲みだす。長崎を舞台にした、作家の初期代表作を収録。(早川書房HPより)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください