おとなりさんインタビューvol.1 中村もかさん「表現することが本当に好き」

<おとなりさんインタビュー>とは?

毎朝乗る電車、なんとなく決まる定位置。いつも隣に座るあの人。
アパートの隣室。たまにすれ違うと挨拶する程度のあの人。
お気に入りのお店、よくいる店員さん。私のことを覚えているような、いないような態度。

そんな「近くにいるけれどよく知らないあの人」=おとなりさん
インタビューしてみようというこの企画。

大企業の社長に、トップアスリートにその人の人生があるように、
今隣で信号待ちをしている“おとなりさん”にも人生があります。

“おとなりさん”の人生、ちょっぴりのぞき見してみませんか?

vol.1:中村もか さん「表現することが本当に好き」

聞き手:ひなた・咲良

中村もか(23):役者・ダンサー・会社員
姉の影響で、3歳からヒップホップダンスを始める。高校で「英語劇部」に入部してから芝居をするように。現在は会社員として働きながら、役者としても活動している。

撮影:富高恵一

――まず、高校時代のお話から聞いていきたいと思います。「英語劇」と聞いてもあまり想像ができないのですが、どのような内容なんですか?

中村もかさん(以下、中村):
全編英語のミュージカルを上演していました。女子高だったから、男役も全員女子で。宝塚の英語版のような感じ。私は娘役をやっていました。

――英語ミュージカルではなく、ストレートの芝居をするような演劇部に入ることは考えなかったんですか?

中村:「英語劇部に入りたいからこの高校に行こう」と決めたくらいだったので。中学生の時、高校の文化祭で英語劇部の『ロミオとジュリエット』を観て「私これに入る!」と思ったんです。演劇部は高校にあったけれど、全然目に入ってなかったですね。

――英語劇部はどんな雰囲気でしたか?

中村:礼儀がちゃんとしている部活で、先輩とLINEを交換しちゃいけなかったんです。連絡は全部メールでした。結局交換してましたけどね(笑)1年生の時は数人の先輩としかLINE交換できなくて。推しの先輩とだけ。特別感はありました。

――大学でも英語劇を続けたんですよね。

中村:MP(Model Production)という団体にいました。そこでは制作過程からずっと英語でやり取りしなくちゃいけなくて。本当に大変だった!(笑)高校の時は暗記すれば良いだけだったので。

――どれくらいの人数でやっていたのでしょうか?

中村:だいたい100人くらい。演者自体は30人くらいで、スタッフも学生がやっていました。演出家だけプロの方で。MP出身の方が多かったです。60年くらいの歴史がある団体で。

――大学での勉強についてもお聞きしたいです。大学は理系で情報系の学部とのことですが、表現に関わるような学部・学科に進学しようとは思わなかったのでしょうか?

中村:その時点で就職のことを考えちゃっていて。当時は就職するのが普通だと思っていたんですよね。表現すること自体はずっとやっていたいと思っていたから、大学は就職に便利そうなところ行っておこうと。今思うと、こんな決め方良くなかったな。

撮影:momoseayano

――なぜそう思うんですか?

中村:もし私が表現系・文系の学部に行ったとしても、就活はほぼ一緒だったと思うんです。新卒採用だと、資格がどうとかそんなに見られていなかった。ちゃんと会話ができるか、挨拶ができるか、資料づくりができるか、とかを見られる。だから、大学では安定を選ばなくても良かったなと思います。

――どこか後悔もあるのでしょうか。

中村:もちろん大学で勉強したことは自分の力になったし、良い場所でした。ただ、もし今進路に悩んでいる人がいたら「本当に好きなことをやれる学科にした方がいいよ!」と言いたい。「絶対この企業に行きたい」というような夢があるなら別だけれど、なんとなく安定した企業に入れれば、ってくらいだったら学科は関係ないと思う。

――ご自身は、大学の学部・学科をどうやって決めましたか。

中村:高3の卒業するタイミングでどうしても留学に行きたくて、確実に推薦で行ける大学にしました。理系を選んだのは、社会の暗記が苦手で、生物は好き、数学は普通だったから。本当に適当な理由で、大学に申し訳ないですね(笑)

――留学はどこに行ったんですか?

中村:アメリカです。1か月ないくらいの短いもので、語学留学に行きました。ホストファミリーと一緒に生活して、現地の生活を知ることがメイン。午前中は語学学校に通って、午後は自由に過ごせたので、舞台を観たり、ダンスのレッスンに行ったりしていましたね。

――ただ観光に行くのとはまた違う発見がありそうですね。

中村:実際にホストファミリーの家に住むと、文化の違いが顕著に表れるから面白いですね。びっくりしたこともたくさんありました。シングルマザーと息子さんの2人暮らしの家だったけれど、急にお母さんの彼氏が現れて5日間くらい泊まっていったり、いとこが遊びに来たり、いきなりホームパーティーが始まったり(笑)いい経験になりました。

――現在についてもお聞きしたいと思います。今は、働きながら役者などとしても活動されています。

中村:役者の世界はフリーランスとして活動している人も多いから、自分はどうするかとても迷いました。でも、私の考え方として、何でも挑戦したいしやりたいけれど、安定した土台を持っておきたいというのがあって。一回は就職しておこうかなと思いました。どうしても演劇だけで安定して食べていくのは難しい世の中だから。

――学業や企業勤めと、役者としての活動を両立するのは簡単なことではないと思います。続けてきたのがすごいなと。

中村:私の心としては、役者としての活動がメインなので。作品を創ること、表現に関わること自体がすごく好きで、楽しい。いわゆる「定職」に就いているほうの仕事も、良い人に恵まれているし、大事なことだなとは思うけれど、すごくハッピーというわけではない。楽し……くはないですよね(笑)。ちょっと理不尽なことがあった時、週末や平日夜の稽古にすごく救われます。演劇という場は心を開くし、それを否定されないのはすごいこと。それを会社ではできないから、リミッターを気にせずいられる場所があることは救いですね。

――精神的に救われる部分はありつつ、両立となると体力的に大変な時はありませんか。

中村:ありますあります。「起きられない、無理。」ってなります(笑)バランスを取れるようになってきたのは最近ですね。まずご飯を食べることと、寝ること。食と睡眠は本当に大事。一時期、色々重なった時期に体調を崩しちゃったことがあって。そうなると何にも力を入れられなくなっちゃうから、体調は本当に大事だなと。

撮影:Ichogo Maeda

――反対に、表現の場にいて大変だなと思うことはありませんか。

中村:現場によってはありますね。演技のアドバイスの枠を超えて、人格否定までしてくるような人もいるから。前は「これも必要な経験なんだろうな」と思っていたけれど、1年くらい経って「いや、おかしい!これは表現のためではないな!」とようやく気が付いて。今では一緒に創りたいと思える人とちゃんと創ろうとすることが増えたから、つらい瞬間は減りましたね。経験しなくていい苦しみは経験しなくていいと思います。

――今、新たに演出にも挑戦されています(※1)が、否定をしない言葉選びを意識しているように見えます。
(※1)月にカルア「とるにたらないものもの」で演出・一部脚本を担当。公演詳細はページ下部。

中村:今回は、脚本が元からあって、キャラクターに当てはめていくというようなやり方ではないんですよね。最初は「みんな参加してくれるのか!?」と不安でした(笑)。集まってくれた人たちが本当に素敵だから、その「素敵」をもっと大きく届けられたらと思います。

――理想形に当てはめていくというより、その人自身が持っているものを引き出していくやり方ですよね。演出する時も、まず肯定の言葉から始めるのが印象的です。

中村:この間役者として参加していた作品の演出家さんが、すごく親身になって話してくれる人で。ずっとそばにいてくれるような。何やっても全て受け止めてくれる環境をつくってくれていたのが、私はすごく嬉しかった。私もできるだけそういう形でやりたいと思いましたね。表現することに対して、否定的な瞬間がないようにしたいなと。演じることに疲れてしまったり、意見を言うのが怖かったりするのは避けたくて、みんなが何言ってもOKにしたかった。

――作品のテーマである「安心できる場所」の空気が、稽古場にも流れているように感じます。

中村:同じようなスタンスを持ったメンバーと作品づくりできていることが本当に嬉しいですね。落ち着かない場所で作品づくりしても落ち着かないですもんね(笑)。みんなが自由に稽古できるからこそ、面白いものが生まれると思います。安心しすぎるのも良くないかもしれないけれど、みんなが安心して挑戦できる、ちょうどいいバランスを模索しながら進めています。

――何をどこまでどう伝えるのか、バランスが本当に難しいですよね。

中村:これまでの現場で教えていただくこともあったし、反対に「こうはしたくない」という場合もあって。その経験は大きかったですね。言葉というものがすごく好きなので、大事に、大事に伝えないとなと思います。どう受け取られるか分からないからこそ、すごく考えますね。<了>


【インタビューを終えて】
ひなた:
自分のやりたいこと、好きなものに出会った時、それとどう関わっていくのかという難しさを抱えることがあります。仕事にするのか、趣味にするのか、どこで何を学ぶのか、独学で進むのか……。企業勤めと表現活動を両立されている中村さんは本当にすごいと思うし、「表現が好き」という強い原動力を感じました。このインタビューが、誰かの生きるヒントに繋がったら嬉しいなと思います!

☆【おとなりさんインタビュー】では、インタビューしてほしい”おとなりさん”を募集しています!応募フォームはこちら

~中村さんからのお知らせ~
【公演情報】
・月にカルア『とるにたらないものもの』
2022年11月20日(日)17:30開場・入退場自由・入場無料(ワンドリンク制500円~)
18:30より、短編2つの上演とワーク、観客を含めた感想共有会を実施予定。@カフェムリウイ(祖師ヶ谷大蔵駅・徒歩7分)

中村さんは、演出・脚本(一部)を担当しています。kikusukuメンバーも多数参加!詳細は「月にカルア」Twitterをご確認ください。
「月にカルア」Twitter @tsukinikahlua
予約フォーム https://www.quartet-online.net/ticket/toruni_monomono


・WITH HARAJUKU コンテンポラリーダンスフェスティバル(東京)
2022年12月10(土)、11(日) @ WITH HARAJUKU HALL
特設ページ《振付家、出演者、作品の詳細はこちら》https://www.yu-y.art/with
※中村さんは山之口理香子作品に出演されます。

【過去出演作品】
映画「咲の朝(大西千夏監督)」牧のぞみ役
https://ozueigasai.jp/tanpen.html?fbclid=PAAaY-N8QJ195Da1IWiNFxqBDsm0KtOw3Mkt_QZDRVVgN8DxDuz6c1MzkJXKU

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