『くしゃみのふつうの大冒険』#04
めんどうな手紙
くしゃみはある朝、「郵便ですよー」という声で目を覚ましました。
玄関の外を見ると泉に郵便屋さんがきています。
郵便屋さんは、「くしゃみさーん、今日もお父さんからお手紙ですよー」と言うと、くしゃみに1通の手紙をふりふり振って見せました。
くしゃみパパさんは、1週間おきに手紙を書いてくしゃみ宛に送ってきます。そして、2日以内に返事をしないと「あいつに何かあったんじゃないか」と1匹で勝手に焦り出して、こちらの家まで来てしまうのです。
病気になったときなどは大変です。くしゃみパパさんは、くしゃみが頭痛や腹痛で手紙を書けなくても、熱が出てしまったことを手紙に書いても、どのみち様子を見にこちらまでやってくるのですから。
なので、くしゃみはそんなとき、病気であることを悟られないように振る舞っています。嘘をついているわけではありません。ただ秘密にしているだけです。
みなさんも既におわかりのように、くしゃみパパさんは、とてもとても心配性でした。
例えば、少しそこへの1泊旅行でさえ、湿布に包帯、バンドエイド、虫除けスプレー、正露丸、そして携帯用トイレなどなど、カバンはもうパンパンです。旅先の枕じゃ眠れないかもと自分の枕までカバンに詰めたときには、くしゃみママさんもとうとう呆れてしまったほどでした。
ちなみに、くしゃみママさんは、くしゃみに一度も手紙を出したことがありません。
いまは家族から離れてひとりで暮らしているのだから、向こうがこちらを必要としていない限り、余計な口出しや手出しはしない方が良いと考えているのかもしれませんね。それに、くしゃみのお兄さんもフカチの森に暮らしているので、何かあれば誰よりもまず彼を頼ることでしょう。もしかしたら家族ではなく、フカチの森の知人たちに力を借りるかもしれませんしね。いずれにせよ、ママさんはくしゃみを信頼していました。きっとどうにか生きているだろうと。
もちろん、くしゃみパパさんだって、くしゃみを信頼していますよ。ただ、信頼に心配が勝ってしまうだけなんです。
くしゃみは、パパさんの心配する気持ちもわからなくありませんでしたが、それが嫌で嫌でたまりませんでした。
腹立たしい。うざったい。黙っていてほしい。うっとうしい。めんどうくさい。そんな思いばかりが刺激されるのです。
なので、くしゃみは、今朝きた手紙の返事も、椅子に座ることすらせずに、ちゃちゃちゃっと書き上げてしまいました。それも郵便屋さんに待っていてもらうくらいのほんの少しの間でちゃちゃっと。
みなさんは、パパさんをかわいそうに思いますか? でも、そんなこともないんですよ。
くしゃみパパさんは、こんな手紙でも喜んで受け取っています。内容の質はもちろんですが、それ以上にしっかり返事が届くことが幸せなんですね。
それにしても父というのは、どうしてこうも家族みんなに嫌われるのでしょうか。くしゃみでさえ、そう疑問に思います。そして、やはりかわいそうだな、と思うこともあります。しかし、それでもパパさんの心配性を好きになることは、この先もずっと永遠にないだろうな、といまはそう思うのでした。
作・絵 池田大空