『夏の砂の上』作者・松田正隆さん特別インタビュー#1「長崎という町の感触を……」

劇作家・演出家の松田正隆さんが1999年に読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞した『夏の砂の上』が、2022年11月3日より世田谷パブリックシアター他にて上演されます。(地方公演あり)演出は栗山民也さん、主演は田中圭さん、共演に西田尚美さんや山田杏奈さん他。今回の上演を機に『夏の砂の上』を含む松田正隆・初期戯曲3篇が収録された文庫本も発売されました。

(※写真は2002年に発売されたもの)

また、松田さんはkikusukuメンバーの出身である立教大学現代心理学部映像身体学科の教授としても活動されています。今回、“教え子代表”としてkikusukuメンバーが特別にお話を聞かせていただきました!

約20年の時を経て今再びこの戯曲が上演されることを話の入り口として、1990年「時空劇団」時代から戯曲を書き続けているということ、演劇とは、戯曲とは何なのか?など、たっぷりお話を伺いました。大ボリュームの全4回に分けてお届けします!

聴き手:ひなた・ミワ
協力 :中川友香さん・山田さん・よもぎさん

※以下、カッコ内は編集部註

#1登場人物がどういう眼差しを持つのか―『夏の砂の上』を執筆した当時の記憶

松田正隆さん。じっくり言葉を選びながらお話を聴かせてくださいました。(撮影:ひなた)


――『夏の砂の上』戯曲を読ませていただきました。松田さんの最近の作風よりも、ドラマ・物語がより前面に出ているような印象を受けました。

松田正隆さん(以下、松田):

「ドラマ」と「物語」「ストーリー」っていうのはちょっと違う(もの)かもしれないけど。ドラマをどう捉えるか、っていう。お話としては、一人の姪っ子が叔父さんの家にやってきて、叔父さんは奥さんとぎくしゃくしていて。姪とおじさんのひと夏の話だよね。家族の話って感じかなあ。

――『夏の砂の上』の初演は1998年、平田オリザさんが演出されています。演出家としても活動される松田さんですが、本作を演出したことはありませんよね。ご自身が演出されるかどうかで、戯曲の書き方は変わるものですか。

松田:変わるね。

――戯曲を書く際には、演出のことをある程度イメ―ジしながら書く場合と、演出は一切気にせず書く場合があると思います。

松田:それは、両方ですね。あんまり上演(演出)の事を考えすぎると、書く意味がないから。まあ後から考えればいいやと思いながら書く部分と、そうは言っても戯曲なので、上演のことを考える部分もありますね。 

――『夏の砂の上』の場合は、どれくらい具体的に舞台上のことを想像されていたんですか。

松田:どういう舞台設定になるか、ということくらいかな。真ん中にちゃぶ台があって、居間があって、日本家屋で、見えないけど二階があって、奥に廊下と台所があって。とにかく、日本家屋の居間が再現されている。その舞台セットのイメージはあるけれど、それさえ意識していれば良かった。そこに人々が出入りするっていう構造で書きましたね。

――戯曲の中のト書きが印象的でした。戯曲に流れている、長崎の町の質感・湿度みたいなものを松田さん自身の身体に宿しながら書かれているように感じたのですが、いかがでしょうか。

松田:ああ、それはあった。それは舞台上の空間というよりも、長崎という町の感触ですね。だいたい(の感触)は僕が長崎の生まれだから。取材にも行ったので(その感触もあった)。物語の登場人物たちのような経験はないけど、具体的な町の雰囲気みたいなものはありました。

『夏の砂の上』公式HPより引用(URLはページ下部に記載)。撮影:若木信吾

――具体的にどのようなイメージを持っていましたか?

松田:居間から、窓の外にはどういう風景が見えるか、登場人物がどういう眼差しを持つのか。あるいは、そこに至るまでにどういう経験をして、町でどういうものを見たのか。それを居間で喋ればいいわけだから。居間と、その周辺と、その前後、居間に来るまでの登場人物の経験・見て来たものっていうのは、重要な記憶として書いてましたね。

――居間など実際の場所と、それまでの経験・記憶として蓄積された場所がある、ということですか。

松田:(一つは)「長崎」って町の中の「家」という現場性。それと、そこで語られる人たちの話題の中に表れてくる場所もあるでしょう。そういうものによって構成されるなにか。

――それが登場人物たちの言動によって立ち現われてくるんですね。

松田:現場性だけじゃなくて、そこで語られてる人の台詞の中にも場所があるので。一般化しうるものと、特異性。演劇で上演されなければ、その場所性は生まれない、っていう気はしますね。

――そうやって20年以上前に書かれたものが今上演されるというのも、また違う「場所性」が生まれそうです。

松田:書かれた時のまま、その頃のものを保つことってそんなにできないだろうし。例えばギリシア悲劇をやるにしても、今そこにいる俳優が上演することだから。書かれてあるものが現代において上演されるっていうことが、重要なんだろうなと思いますけどね。

#2「長崎を描き続ける必然性とは?」へつづく


【編集部のひとこと】

ひなた:居間という場所にいながら登場人物たちの話す言葉の力を使って、居間ではない場所も立ち上げる。まさに戯曲・演劇の醍醐味だと思います。『夏の砂の上』は「そこ」ではない場所や「今」ではない時間の存在を強く感じる作品ではないでしょうか。

ミワ:「話しているうちに立ち現れる場所がある」ことって、日常生活だとよくあって、改めてそれを認識すると確かにとても面白いことだなぁと興味深かったです。

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ご応募お待ちしております!【応募〆切:11月25日(金)23:59まで】※ご当選の方のみご連絡いたします。

〈公演情報〉

『夏の砂の上』

【作】松田正隆 
【演出】栗山民也

【出演】田中圭 西田尚美 山田杏奈
    尾上寛之 松岡依都美 粕谷吉洋 深谷美歩 三村和敬

【日程】
東京公演は2022年11月3日(木・祝) ~ 11月20日(日)、世田谷パブリックシアターにて上演。
その他、11~12月にかけ兵庫・宮崎・愛知・長野をツアー予定。

チケットの詳細は公式HP・SNSをご確認ください。

【公式HP】  https://setagaya-pt.jp/performances/2202211natsunosunanoue.html
【公式Twitter/Instagram】 @natsunosunanoue

☆戯曲が収録された文庫本も発売中

『松田正隆Ⅰ 夏の砂の上/坂の上の家/蝶のやうな私の郷愁』
早川書房/【価格】1,800+税

日本現代演劇の旗手、松田正隆の代表作3作を初文庫化。日常の裂け目や静かな台詞の行間から、心の渇き、生と死、都市の記憶が滲みだす。長崎を舞台にした、作家の初期代表作を収録。(早川書房HPより)

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