『夏の砂の上』作者・松田正隆さん特別インタビュー#2「長崎」を描き続ける必然性とは?

kikusukuでは『夏の砂の上』の上演・戯曲本の発売を記念して、本作の作者である劇作家・演出家の松田正隆さんにインタビューを行いました。(全4回連載)

#1の内容はこちら!

『夏の砂の上』作者・松田正隆さん特別インタビュー#1「長崎という町の感触を……」

田中圭、西田尚美、山田杏奈らが出演する舞台『夏の砂の上』が、2022年11月より世田谷パブリックシアター他にて上演されます。kikusukuでは作者である松田正隆さんにお話…

#2では、戯曲の書き方について、また『夏の砂の上』の舞台でもある「長崎」についてお話を伺いました!

#2「長崎」を描き続ける必然性とは?地元・長崎市で過ごした時間

長崎の眼鏡橋

――戯曲を書くとき、脳内にはどれくらい具体的な姿が思い浮かんでいますか?

松田正隆さん(以下、松田):難しいね、これ(笑)。まったく思い浮かんでいなかったら書けないよね。でも、まあなんか書くと次が出てくるから。ぼやっとしててもいい場合と、鮮明な時と、両方ある。

――戯曲を書く時のスタイルなどはあるのでしょうか。

松田:もう今は、ルーティンが決まってて。僕、ルーズリーフを机の上に置いてるんですよ。バーッと書いていると、アウトラインがぼんやりできてくる。で、「あ、いいぞ」ってなってきたら、スケッチブックを出してきて、描いていく。頭の中であーだこーだやるより手を動かしていないと。だから最初は絵ばっかり描いてますよ。

――スケッチブックで絵を描いているんですか?

松田:絵ってほどじゃないんだけど。絵も描きながら、誰が出てくるとか(言葉のメモも)両方。整理するって感じかな。そうやって形から入る。

――「夏の砂の上」は、松田さんの出身地である長崎が舞台になっています。この作品以外にも、何度も長崎を題材にされていますよね。何か必然性のようなものがあったのでしょうか?

松田:今だから昔のこと思い出して言えるのかもしれないけど、演劇を始めようとした時に、分かんなかったわけよ、演劇をどうやってやればいいか。それまでは「面白いな、これ」っていうのを模倣してた。唐十郎(※1)と、別役実(※2)。どっちも好きで、その二人を目指してた。だけど、ただ目指してるだけじゃダメなんですよね。「あなた(のやりたいこと)は何なんですか?」と。だから一回、自分の母親と父親が結婚に至るまでの話をやりました。

(※1)……紅テントで上演されるアングラ演劇で有名な劇作家/演出家/俳優。
(※2)……日本の不条理演劇の第一人者とも言われる劇作家。

――ご両親の話ですか!

松田:「本格的に演劇をやっていくなら、勝負をかけなきゃいけない」って時があって。一番身近なものでやりました。『紙屋悦子の青春』って(タイトルで)母親の名前そのままなんだけど(笑)

――そのままなんですね(笑)

松田:そう。戦時中の鹿児島で母親が兵隊宿(※3)みたいなのをやっていて、父親が近くの航空隊にいて、それを題材にして芝居を書こうって。でも鹿児島弁書けないから、全部長崎弁・九州弁みたいにしてつくったんですけど。

 (※3)……戦時中、日本兵のために自宅を宿として貸し出すことがあった。

――身近なところが劇作のヒントになったんですね。

 松田:それ(『紙屋~』)に手ごたえがあって。次に『坂の上の家』っていう、やっぱり長崎を舞台にしたのを1年後に書いて、またその1年後に『海と日傘』っていうのを書いて。架空の九州の町の話をつくりましたね。

長崎・平戸の町並み

――『坂の上の家』は今秋発売となった戯曲集にも収録されていますよね。長崎が題材になったのは、身近だったからなのでしょうか?

松田:純粋に「長崎」を舞台にしたのは、『坂の上の家』と『夏の砂の上』くらい。『夏の~』までは、ある程度実感のあるもので書き進めようとしましたね。それが90年代の後半くらいで、その手法がもういっぱいいっぱいだ、となったのがこの作品(『夏の~』)を書いた時でした。もうこれの再生産だな、なんか変えなきゃと。

――『夏の~』の次も、長崎に関連した作品(『雲母坂』)を書かれていますよね。

松田:故郷・平戸の近くに生月(いきつき)って島があって。そこに「かくれキリシタン」つまり、元々はキリスト教徒だったんだけど、それが土着化して、オラショっていう呪文を代々受け継いでいる宗教があって。ウチはそうじゃなかったけど周りがそうだった。自分たちの故郷の周りに異郷がある。それを見直して書きましたね。

――「長崎」といえば、ご自身が主催するマレビトの会での「長崎を上演する」(※4)も思い起こされます。演劇をつくる上で、社会との関わりも意識されているのでしょうか?
(※4)……2013年から2016年にかけて行われたプロジェクト。複数の作者によってひとつの都市をテーマに戯曲を書き、その上演を行うことを繰り返す。2016年から2018年には「福島を上演する」も行われた。

松田:あんまり意識しない。でもマレビトの会でここ10年やってきたことは、一旦そうでしたね(社会問題を取り扱った)。やっぱり「被ばく」っていうことには、ずっと前から興味があったから。広島、長崎、そして福島。演劇を上演する上で、その3つの被ばく都市について描きたいなあっていうのはありましたね。

#3「戯曲と小説はどう違う?」へ続く


【編集部のひとこと】

ひなた:長崎で過ごしてきた時間の積み重なりが一つ一つの戯曲に反映されてきたのだなと。身近な話題を多くの他者へ届くものに変換するのは簡単なことではないと思います。戯曲の生まれた背景を知ることは、作品により深く触れることへと繋がるのではないでしょうか!

ミワ:私は紅テントで芝居を観てから、唐十郎さんの肉体を酷使するあの演劇がとても好きなのですが、まさか松田さんが唐さんから影響を受けていたとは思わず!(笑)松田さんの作品は静かに時間が流れていくものが多い印象だったので驚きました!

☆マレビトの会HPは以下URLよりご覧いただけます。「長崎を上演する」ほか、作品紹介も多数掲載されています。
http://www.marebito.org/

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ご応募お待ちしております!【〆切:11月25日(金)23:59まで】※ご当選の方のみご連絡いたします。

〈公演情報〉

『夏の砂の上』

【作】松田正隆 
【演出】栗山民也

【出演】田中圭 西田尚美 山田杏奈
    尾上寛之 松岡依都美 粕谷吉洋 深谷美歩 三村和敬

【日程】
東京公演は2022年11月3日(木・祝) ~ 11月20日(日)、世田谷パブリックシアターにて上演。
その他、11~12月にかけ兵庫・宮崎・愛知・長野をツアー予定。

チケットの詳細は公式HP・SNSをご確認ください。

【公式HP】  https://setagaya-pt.jp/performances/2202211natsunosunanoue.html
【公式Twitter/Instagram】 @natsunosunanoue

☆戯曲が収録された文庫本も発売中

『松田正隆Ⅰ 夏の砂の上/坂の上の家/蝶のやうな私の郷愁』
早川書房/【価格】1,800+税

日本現代演劇の旗手、松田正隆の代表作3作を初文庫化。日常の裂け目や静かな台詞の行間から、心の渇き、生と死、都市の記憶が滲みだす。長崎を舞台にした、作家の初期代表作を収録。(早川書房HPより)

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