世界の約束を知った人とともに生きる。
僕はどんな人とともに生きていきたいだろうか。
家族?友達?大学の教授?会社の同僚?
思い浮かぶ人は沢山いるけど、共通点がある気がする。
さらに思い浮かべてみる。ある人たちが顔に浮かんだ。
今では仲良くご飯を食べたり、お酒を飲んだり、服を買ったりする仲の人たち。
でもただの友達とはちょっと違う。
昔は苦手だった人だ。
今ではすごい仲がいいし、別にあの頃のあれこれを掘り返すつもりは全くない。
ただ不思議だった。
どうして今はこんなに仲がいいんだろう。
今も苦手な関係性になっているかもしれないのに。
どうして共に生きていきたいと僕は思うんだろう。
家族や友人らへんまでなら、共通点を簡単に見いだせた気がする。
でもかつて苦手だった人たちとも共に生きたいと思うのはどうしてなのか。
何かがみんなの中にある気がする。
その時、あるアーティストのこんなフレーズが浮かんだ。
世界の約束を知って
それなりになって また戻って
これはフジファブリックというアーティストが出した
「若者のすべて」という楽曲のワンフレーズだ。
このフレーズだけ読んでもイマイチ意味がわからない。
世界の約束って?日米修好通商条約的な?
それを知ってそれなりになったって、どれなりになったの?
また戻ったって、どこから?
こんな疑問が沢山浮かんで、想像が渦巻いてしまうだろう。
でも、僕はこのフレーズを聞いて、
前述の【苦手だった】人たちが【苦手じゃなくなった】瞬間を思い出した。
ある人がいた。
ある人はよく僕に鼻水をつけてきた。
早口でかくかくしかじかの理由で嫌だよと必死に説明する僕がおかしかったんだと思う。
気にせず鼻水をつけてきた。
塾のトイレで手を洗い終えた時に手につけてきた。
(今思うと自由自在に鼻水を出せるのがすごいなと思う。)
僕とその人は中学受験をしていて塾に通っていた。
冬になり、自宅での学習が続くようになって、僕とその人は会わなくなった。
やがて本番を迎え、いろいろな結果が出てくる時期になった。
その後塾の卒業式のようなものがあり、久しぶりにその人と会った。
一回も鼻水を出さなかった。
僕は驚いて
「大丈夫?」
と聞いてしまった。
そしたら彼は
「いろいろごめん」
と急に返した。
それからは普通に会話するようになって、普通に仲良くなった。
後々知ったことだが、彼のいろいろな結果はあまりよくなかったらしい。
彼は【世界の約束を知った】。
多分彼は受験という、この広い世界で共通の競争制度に飲み込まれ、
自分と同じ時間を生きてきたたくさんの人と戦って、
それで世界というとてつもなく大きな存在に打ちのめされたんだと思う。
だから鼻水を出す気も起きなかったんだと思う。
今思い返せば、僕が昔苦手だった人たちはみんな、
どこかで別人のようになる瞬間があった。
その瞬間はいつも、世界の約束を知った瞬間だった。
例えば、留年しそうになった時。
高校は義務教育ではないので容赦無く留年する。
エレベータのように力を入れずとも進級できる時代が終わり、
本当に留年ギリギリに追い込まれた人がいた。
1年振りに同じクラスになり再会した時、
彼はものすごく謙虚で控えめな人間になっていた。
彼もきっと、容赦無く、無慈悲にも、留年してしまうこの世界の約束を知ったからだと思う。
自分ではどうすることもできない、
自分が生まれる前から、この世界にあった大きな約束。
その約束を知って、打ちのめされることで、人は自分の弱さを知るのだと思う。
自分は弱く、ちっぽけな存在だと。
【世界の約束を知って、それなりになる】のだ。
しかし、また戻る。
世界の約束を知って、打ちのめされた人は、やがて他者の存在価値を知る。
自分1人では生きていけないからこそ、
自分と良好な関係を持ってくれる人を愛おしく感じる。
そうして人の優しさを知り、温かさを感じて、打ちのめされた人はまた元気を取り戻す。
【また戻ってくる】のだ。
僕自身人間関係で打ちのめされたり、
どうしても越えられない才能という壁にぶつかったり、部活で辛い思いをしたりして
世界の約束をいろいろ知った。
しかしだからこそ周りの人の
大切さに気づけたのだと思う。
家族、友達、大学の教授、会社の同僚、友人、そしてかつて苦手だった人。
全員に共通していることは、みんな世界の約束を知った人だということだ。
一度は世界に打ちのめされた経験がある人や、
自分の弱さを知っている人だということだ。
そういう人は、他の人にも寄り添うことができる。
相手を突き放さず、手を繋ぐことができる。
それは手を繋がないと、自分1人になってしまうからという利己的な理由かもしれない。
この僕だって、そんな理由で人に寄り添っている部分があると思う。
それでも僕は世界の約束を知った人と共に生きたいと思う。
この世界にこれからも打ちのめされながら。
それぞれの痛みを共有して、
傷を慰め合って、たまに遊んで満たされて、また痛くなって、そうして生きて行く。
世界の約束を知った人と、
ともに生きる。
(引用 フジファブリック 若者のすべて
マモルです。作品を見ること、作ることが大好きです。ちょっと気を抜くとすぐに、折り畳み傘に髪の毛がひっこ抜かれてしまいます。気を引き締めて毎日生きてます。生き急ぎ過ぎないように。