マモルのミーニージャーニー紀行その2 千川&椎名町編 後編

僕はさっきのようにざっくりとした道順を頭の中で描いて

進むことをやめた。

代わりに道中で確実に辿り着ける場所まで行くことにした。

Googleマップの青い線は立教通りとクロスしていた。

立教通りとはミーニージャーニー第一回目で僕が最後にいた場所だ。

あのあたりの地理感を奇跡的に知っていた僕は

あの通りに90度の角度で接している通りを北上していけば確実に近づくことがわかった。

僕は少しスピードを上げた。

消防車がサイレンを鳴らして街を突っ切っていく。

子供が泣いている。

自分の焦りと緊張に街がリンクするかのようだった。

段々と日が暮れ始めている。

僕は一応確実に近づいているだろう場所まできた。

ただ、ここから先は自信が持てない。

もう見当違いの方向に行くのはこりごりだ。

昔の人はどうやって、ケータイを使わずに目的地にたどり着いていたんだろうか。

そう。昔の人は交番で道を聞いていた。

交番に行けば道を教えてくれる。

知識として知ってはいても

実践したのは生まれて初めてかもしれない。

しかしここまで来てしまったからやるしかない。僕は緊張しながら交番の戸を開いた。

「あのーすみません」

「はいーどうされました?」

「えっと実はケータイの充電がなくて、場所がわからず道を聞きたいんですけど...」

「はい。どこですか?」

「トキワ荘ミュージアムなんですけど。こっちの方向で合ってるんですかね?」

「あぁそうですね!合ってますよ!えっとこの先大きな橋があるじゃないですか。」

「はい。」

「そこを過ぎると交差点があるので、それを右。するとそこにまた交番があるので、それを過ぎたところを右に行って、そこの突き当たりら辺に公園があるんですね。その近くにトキワ荘ミュージアムはあります!」

「ありがとうございます!じゃあ、わからなかったらまた、その近くの交番の方に...…」

「そうですね、それがいいと思います!」

「ありがとうございました!」

警官はもっと高圧的な人だと思っていたら、とても気さくに話してくださった。

僕は自信を持ってその方向に向かって歩き出した。

だいぶ長い距離を歩いた。

さっきの交番のおじさんが言ってくれた交差点にたどり着いた。

ここを右に曲がれと言っていたので、右に曲がることにした。

立ち止まってしまった理由は明らかだろう。

お腹が空いた。正直ここで立ち止まっているような暇はない。

しかし、お腹が空いてしまったのだ。別に誰かと約束しているわけでもないし、

最悪トキワ荘ミュージアムに行けなくたって困るのは自分自身だった。

だから僕は迷わず店内に入っていった。

このお店のおすすめはロールケーキだった。

お店の外にもロールケーキに命をかけているといった煽り文句があったし、

何よりロールケーキを今年になって食べていないことに気づいた。

僕は買ったあと外に出てすぐ食べた。

店員さんに何分後に召し上がりますかと言われたが

外ですぐ食べますと言ったので保冷剤は貰えなかった。

ロールケーキのスポンジ生地はふわふわしていて美味しかった。

中のクリームも固過ぎず、溶けていくようなクリームだったので

ものすごくあっさりしていた。

僕の緊張はクリームと一緒に溶けていった。

そもそも自分は何に追われていたんだろう。

自分が決めたルールの中で勝手に追い詰められていて

僕は自分の状況がおもしろ可笑しく思えてきた。

あっという間に食べ終えた自分は再び歩き出した。

二つ目の交番だ。

確実にトキワ荘ミュージアムには近づいている。

僕は交番に入っていった。

さっきまでの緊張感はなく、スポンジのようにふわふわと扉を開けた。

しかし、残念ながら警官はパトロール中で

僕はここで手がかりを失ってしまった。

正直次の2つめの交番でトキワ荘ミュージアムへの行き方を聞くだろうと思っていた僕は

さっきの警官に2つ目の交番を超えた先どのように進むよう言われたかを忘れてしまっていたのだ。

そこで僕はこの町にいる人に尋ねようと思った。

そして僕はとある写真館を見つけた。

東京写真工芸社

その写真館の佇まいはレトロそのもので

どこかトキワ荘の時代を彷彿とさせるものがあった。

写真館こそ今の時代、若者が熱心に行くような場所ではないだろう。

しかしこの写真館は白黒写真の時代からこの町に存在していて、

この町のたくさんの人の姿をカメラに収めてきた。

ディスプレイにはたくさんの白黒写真があった。

私はこの町とこのお店に絆を感じた。

きっとこのお店ならトキワ荘ミュージアムがどこにあるかを知っているはずだ。

私は中へ入った。

「すみません...…ちょっとお聞きしたいことがありまして..….」

「はいはい」

「トキワ荘ミュージアムを探してまして......この辺にありませんでしたか?」

「あぁ、トキワ荘ね。ここ今角にいるでしょ?」

「角......」

「そう角、それを右に行くの。右に行ってまっすぐいったら右手に見えます。」

「ありがとうございます!」

「はいー。」

優しかった。

「道を教えてほしい」

こちら側にしかメリットがない会話なのに

どこまでも優しくみんなが答えてくれる。

僕が最近大人と話すことなんて

〇〇ってどうなってるんだっけとか

〇〇の件ですがとかビジネスライクな会話ばかりだったので、こういう会話の優しさが余計強く感じたのかもしれない。

そしてついに17時12分。

私はトキワ荘ミュージアムに辿り着いた。

トキワ荘と書かれた案内板が公園の入り口に突き刺さっている。私はその文字を見た瞬間。

はぁ……とため息が出た。

それはようやく辿り着いたという達成感からなのか

歩き疲れた疲労からなのか、もはやわからない色々な感情を詰め込んだものだった。

トイレの壁面には効果音が沢山書いてあったり、意外と最近の漫画のキャラクターがいたりして賑やかだった。ただトイレの中にはゴミ箱がなく結局ここでも僕はタバコの吸い殻を捨てることができなかった。

タバコの吸い殻は引き続きティッシュでぐるぐるにしたままポケットに入れるしかなかった。

トキワ荘ミュージアムは公園に入って右側にあった。

二階建てのアパートとだけ聞いていたが

その外見はだいぶ綺麗に思えた。

おそらく何回か改修工事を行ったのだろう。僕は意気揚々と中へ入ろうとした。

入れなかった。

どうやら今日は新しい展覧会の関係者向けお披露目会で招待状がある人間のみが入れる日だったらしい。

オープンは明日だった……明日来ていたら……

とりあえずトキワ荘の外観だけを眺めて、ここで生まれた数々の名作に思いを馳せた。

チラシだけは貰えた。

3人の自信に満ちた顔が今の僕には妙に虚しく映る。

とりあえずヘトヘトだった僕は大人しく家へ帰ろうとした。その時。

公園の左側にあった喫茶店が目に止まった。

カフェスペースEDEN

ここはどうやら当時トキワ荘にいた人が通っていた喫茶店がEDENだったらしく、その名前だけを借りて現代に蘇らせた、トキワ荘専用の喫茶店らしかった。

僕はとりあえず座りたいと思い中に入った。

店内は明日の展覧会に合わせてリニューアルするらしく、その準備で忙しそうだった。

店の中にはスーツを着た立派な大人たちが何人かいて、なかなかに繁盛していた。

〇〇先生という言葉が飛び交っていて、どうやら実際の漫画家が今回の関係者限定の展覧会を見に来ていたということがわかった。

その人は色紙を渡されてこの喫茶店用にサインを書いていた。

ここでは何か注文すれば、店内にある漫画を好きなだけ読むことができるらしい。本棚にずらっと並んだ漫画を見たがどれも読み込まれた跡があった。ここで沢山の人が沢山の漫画を読んでいることが分かり、僕はこの喫茶店にも勝手に絆を感じてしまった。僕はカウンターに座ってメニューをもらった。

手塚治虫の短編集を読んでいると

あっという間にミニパフェが運ばれてきた。

季節によって内容は変わるらしく、

今のシーズンは和風パフェらしかった。

みたらしソースにきなこ、そしてバニラアイスと白玉。上には胡麻がふりかけてあった。

意外とこの組み合わせを見たことがなかった僕は

一口食べてみて美味しさに驚いた。

きなこと胡麻は香ばしく、

さらにみたらしソースの塩っけが

バニラアイスとものすごく調和していた。

僕は甘すぎるスイーツは苦手だが、このパフェは本当に程よく甘く、程よく小さかった。

あっという間に食べ終えて、本を読み終わった僕は店を後にした。

一気にいろんなことがめでたしめでたしになった気がした。

正直疲れたし、途中Googleマップルールに翻弄されてしまったが、

おかげで気づいたことも沢山あった。

ぶらぶら歩くことの怖さ。

お店とお客さんの絆。

ユーモラスな注意喚起があまりない理由。

そして今回最も大きな発見は

自由を求めるあまり逆にがんじがらめになってしまうということ。

僕はGoogleマップを見る回数を減らして、自由に旅をしようとしていた。

スマホから視界を解き放てば自由になれると思ってしまっていた。

ただ、結果的にGoogleマップを意識して、沢山緊張してしまった。

もちろんいろんな人と話せたこともあって、いいこともあったけど、次からはもっと柔軟に対応しようかなと思った。

「なんか緊張してきた。はい!じゃあルール撤廃します!今から普通にGoogleマップ解禁!」

みたいな感じでゆるくルールを壊していければもっと自由になるのかなと思った。

果たして次はどこに行こう。

(駅構内のトイレで吸い殻をようやく捨てることができた。)

マモル

マモルです。作品を見ること、作ることが大好きです。ちょっと気を抜くとすぐに、折り畳み傘に髪の毛がひっこ抜かれてしまいます。気を引き締めて毎日生きてます。生き急ぎ過ぎないように。

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