私の言葉、私の詩
昔からずっと、「詩が書けない」ことがコンプレックスだ。
どういうわけか、文章を書くこと自体は小さい頃から本当に好きで。
小学校の作文の授業で出される、
「遠足の感想を書きましょう」
「2年生の抱負を書きましょう」
といったお題たちは、いつも私の飛躍の滑走路になってしまった。
最初こそペン先はお題の上をなぞり滑っているものの、すぐにあらぬ方向へバサバサと飛び立って、全く別の世界に飛び立ってしまう。それがどんな遊びよりもゾクゾクと気持ち良かった。
原稿用紙を欄外までびっしりと文字で埋める私を、先生はあまり咎めずに見守ってくれていたが、今思うと本当に有難い。あそこでもし翼を折られてたら、多分私はこうしてkikusukuのライターをやっていなかったと思う。
でも、その頃から今に至るまで「詩を書こう」と思うと急にかしこまって、頭と手が上手く動かなくなる。
恐らく頭の中で経験や感覚を詩に接続してアウトプットする配線が上手く繋がっていないせいで、いつも私の言葉は「詩っぽいもの」の上辺をなぞってしまい、出来上がる文章は書いた先から腐っていくような目も当てられないものになる。
そういうものを読んでいる時は、自分が「詩を書く」をやりたいがために薄く嘘をついたり取り繕ったりした部分が本当にヒリヒリ沁みてきて、情けなくて、恥ずかしい。
でも最近、この配線の繋げ方が少し分かったきっかけになる出来事があった。
それはある日、kikusuku編集部のワークショップに参加した時のこと。
主催のひなたちゃんが、研究室から見つけて持ってきてくれた「暮らしの哲学 やったら楽しい101題 (ロジェ=ポル・ドロワ 著、鈴木邑 編)」という本の中から、「ていねいに字を書く」というワークを紹介してくれた。
「頭に浮かんでくる考えを、どんなつまらないことでも紙の上にひたすら書きつけていくことです。(略) 文章の意味にはできるだけ気を使わないこと。ここでは、形よく、読みやすい文字をよどみなく整然と書きつけているという事実が重要なのです。(同書、80ページ)」
とにかく思いつくことをていねいに、止まることなく書き続ける。
実際やってみると、結構難しい。ついつい内容を意識しそうになるのをこらえて、頭から流れ出てきた言葉をそのまま紙に彫るように書き続ける。テンポよく汁物の薬味の長ネギを刻むときのことを思い出すような作業だった。
3分経ったか5分経ったか、ひなたちゃんの声で我に返ると、そこにはこんな言葉が書かれていた。
「ねむいと思っているとき、私自身の中にある沈黙とそれを見ている別の自分がいて、その2人が目が合ったときに生じるふるえではたと目が覚めてしまうことがある。それは昔の1コマであって、今の生活ではない。
でも変わったのは私ではなく環境で、生活、つまり暮らしが変わればそれはふと私に舞い戻ってくるのかもしれないと最近は思う。この太い鉛筆で書く文字が思った以上に美しくならないのと思じ(同じ)ように、私は一筋のもどかしさを以ってあの日の仕事を思い出す。袋を取り出してこじ開け、本を差しこんで閉じる。その繰り返し。いつまでも本当のこととは思いがたく、でも確かにあったあの日も、今日と同じように少し寒かったような気がしてきた。
あの日の匂いと手ざわりはうすれていって、それは多分今も同じ、今日も同じ、腹の具合が最近ようやく分かるようになってきて、初めて3食はとてもすこやかな人間のための習慣なのだと気づく。そしてこういうとりとめもない考えは文字や言葉の形をした体すら有しておらず、こうして今生み落とされて初めてそのことに気づく。
この腕の外側の痛み、当分味わっていなかった。今日は帰ったら衣がえをして、いよいよ本当に欲しいコートとサイフを買いたい。」
これ私の詩だ、と思った。
詩に親しんでいる人からするとクオリティや形式の細かいところの問題はあるとして、私としては初めて自分の血が通った詩が生まれた、いつもの文章とは違う類のものが生まれたという感覚が、読み返してみても確かにある。あと読んでても嫌に沁みない。
そして何より、これを書いているときの私の気持ちはあの5時間目の作文の授業の時のように、ちょっとだけ”飛んで”いた。
催眠にかけられた時ってこんな感じなんだろうかと思いつつ、ずっと前にやっていたことを久々に思い出せた結果のような気もする。
実際のワークの目的とは別に、改めて自分の文章についてちょっと考え込んだ時間だったのでした。
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