「優しいあなたに恋してた」第1話

私の人生は終わったのかもしれない。

今私はユウくんの家にいる。

ごま油のいい匂いがする。

我ながら上手くできたと思う。

野菜たっぷり、豚肉多めの肉野菜炒め。

作りすぎちゃったかも

そこにホカホカのご飯をレンチンして

ユウくんの机に持って行く。

「できました〜」

パソコンの画面と格闘していたユウくんが

こちらを優しく振り向いた。

「おー野菜炒め?」

「お肉も入ってるよ」

「えー!食べよ食べよ」

「はいはい」

私が作った料理。

子供みたいにテンションが上がってしまうユウくん。

これで26歳なんてちょっと信じられない。

対して私はユウくんとバランスを取るように

冷静に麦茶をキッチンから取りに行く。

ユウくんのケータイのシャッター音が聞こえる。

また私の料理を写真に撮ってるらしい。

「湯気がもうちょっと映ってほしいんだよな……」

「冷めちゃうよ」

「だね。ごめん。いただきまーす」

「いただきます」

豚肉野菜炒めはかなり美味しかった。

それまでは先週ユウくんに作った

唐揚げがベストだったけど、

今日ランキングは更新されたようだ。

「うまいなぁ……やっぱユズすげえよ……」

「いやいや、ユウくんの方が凄いじゃん、映像できるし」

「いや、ユズのほうが全然すげえクリエイターだと思うわ……」

「そんな大したもんじゃないって」

「だって、料理っていろんなものを組み合わせて、全く新しいものを作るでしょう?しかもこんな短時間で作るには色々なことを同時並行で考えて実行しなきゃいけないじゃん?めちゃめちゃ凄いことだよ……」

「えーありがとう」

「俺が今1番できなきゃいけないのになぁ」

「ユウくんは頑張ってるよ」

「いや、さっきも1ヶ月前に納品した作品の修正対応が来てさ、今やってる案件の準備が全然できなくて……」

「えー1ヶ月も前に終わったんだからもういいじゃんね」

「まぁ、俺も1発で納品できればいいんだけど……次から次へって感じで全然手が回んなくてさ……」

「そっかーなんか手伝えることがあったら言ってね」

「もう充分手伝ってくれてるよ。こんな美味しいご飯作ってもらっちゃってるし。ホントありがとうね、洗い物は俺やるから置いといて」

美味しそうにご飯を頬張るユウくんを見ていると

私の人生はここで終わってもいいのかもしれないと感じる。

だってこんな素敵な人と一緒にいられるのだから。



「マッキーいい加減次行こ?」

ユッキーことユキジがフライドポテトを

口に放り込んでから言った。

「それな?もう流石にいいっしょ」

古村も同調しながらハイボールを飲んでいる。5杯目である。

「いやいや、そんなポンポン好きな人なんか出てこないからね?」

僕は5ヶ月前大好きななつみちゃんに告白をした。

結果は多分ダメだった。

いや、なんで確信が持てないかというと

その時の彼女の言葉が妙にOKの可能性を残していたからだ。

「ものすごく嬉しい。

だけど今はちょっとバタバタしちゃってて……

ごめんね。」

原文ママである。

最後に謝られてるからナシなのか。

それともものすごく嬉しいと言ってるからアリなのか?今はちょっとバタバタしてるということはいつかバタバタしなくなったらOKになるのだろうか?そんなアリともナシとも判断ができないまま気づけば5ヶ月もの月日が経過していた。

流石の僕でも気づく。

5ヶ月何の音沙汰もないのはちゃんとナシだ、と。

さらにもう一つナシな理由がある。

先週同期との飲み会に久々に出てみたら

普通になつみちゃんがその場で楽しく飲んでいたということだ。僕はその瞬間彼女のバタバタはとうの昔に終わっていたことに気づいた。

完全に僕の中で

僕はナシになっていた。

「ポンポンって5ヶ月じゃん。5ヶ月は長いって」

「俺ミキと別れて、マイと付き合ってが4ヶ月だからね?」

「いや、どうでもいいし」

僕となつみちゃんの話はなぜかこいつらと飲んでいると避けられないトピックになっていた。

「だって昨日飲み会にもいたんでしょ?なんか話さなかったの?」

「いや、結構見たことないくらいに酔ってて……そのあと寝ちゃってたから話せてないんだよな……そもそも俺がいたことすら気づいてないかもしれん」

「そんな姿を見せちゃっても気にしなくなっちゃったんだって、向こうは。気づきなさいよもうそろそろ」

コイツらの言ってることは全部ホントだ。

ホントにうんざりするくらい当たってる。

けどこの5ヶ月がなんだか無駄になる気がして

無性にその事実を受け入れられないでいた。

なんとかして彼女はまだ僕を見ているという流れに持っていきたくなった。

「てかなんで……

ダメだった……のか?」

「いやダメだっただろそれは!」

「だって理由がわかんないんだよ、なつみちゃんとは普通に話もめっちゃ合ってたし……だって仮面ライダー好きなんだぜ?しかも今もリアタイ勢だよ?この前ディレクターズカット版のDVD貸してくれたし」

「あーそれはだいぶ仲良いわ」

「でしょ?しかも俺にオススメの映画聞いてくれて、それちゃんと借りて観て感想のLINEくれたりするんだよ?」

「え?それ好きじゃね。マッキーのこと」

「え?やっぱそう?」

「うん。普通そこまでしないと思う」

「マイにそんなことされたことねぇよ……」

「元気出せよ」

なぜか古村がガクッと肩を落としてしまったが、

僕は構わず推論を続けた。

梅酒ロックがエンジンとなって

僕の口を流暢に回している。

「いや、俺もさなつみちゃんとそういうLINEするのマジで幸せでさ……すげえ長文でやりとりしてて」

「それはーあるな。ワンチャン」

「でしょ?え、だよね!?あるよね!?」

「うん。実際あるわ」

「なんかマイも言ってたけど、本当に好きな人にはいざっていう時ちょっと突き放しちゃうみたいなこと言ってたわ」

「これか!このことか!」

「アツいな」

「やっぱりそうだよ!飲み会に行けるようになったのも、きっとようやく最近でさ!ちょうど先週くらいにバタバタが終わったんだよ!だから……絶対……多分……もう落ち着いたんだよ……」

後半にかけて酔いが急激に覚めたのか、

どんどん勢いが無くなってしまった。

やっぱり心のどこかで無理があると自分自身感じているのだ。諦めるしかないのだろうか。その時LINEの通知音が鳴った。僕はLINEを開いた。現在進行形でコメントが来ている。今2つ目が来た。

なつみちゃんからだった。

「昨日牧野くん飲み会きてた?

ものすごい酔ってて覚えてないや😆」

「また牧野くんさえ良ければライダーのやつ行きたいです!」

僕は思わずその場で立ち上がって叫んだ。

「うぉおおおおおおおお!」

「どした?」

「来た!今!遊びに行きたいって!また!」

「おおおおお!アッツ!」

「うぉおおおおおお!カンパーイ!」

なぜか古村もユッキーも立ち上がる。

ワールドカップで日本がPKゴールを決めたレベルにアツい乾杯をした。

「ルネッサーンス!!!」

古村のそれはハイボールだしよくわからないがどうでも良かった。僕も一緒にルネッサンスと叫んで杯をぶつけた。ガチンと音が鳴り、中のサワーがシュワシュワ弾けながら大きく波打った。

まるでドラマのセカンドシーズンが

始まった気分だった。

まだ続きがある。終わりじゃない。

むしろここからが始まりなんだ、と。

マモル

マモルです。作品を見ること、作ることが大好きです。ちょっと気を抜くとすぐに、折り畳み傘に髪の毛がひっこ抜かれてしまいます。気を引き締めて毎日生きてます。生き急ぎ過ぎないように。

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