本当はこんな話あんまりしないんだけど、
これまで文字媒体に一度も書いてこなかったのだけれど、
私には小6から大好きなバンドがいる。
こんなに「好き」期間が長いのに、ただ文章にしていないだけではない。
私はほとんど友人にもこのバンドの話をしないし、カラオケでも滅多に歌わないし、バンドをやっていた頃もカバー曲の候補にすら挙げなかった。
これまで何故そうしたか考えたこともなかったけれど、多分あまりにも自分の中で彼らの価値が大きすぎて、下手に表象して誰かに小言でも言われたら耐えられないからだと思う。
みんなが急所を衣服で隠すように、自己防衛として彼らのことは胸の中にそっとしまっていた。
でもkikusukuで推しを特集するというのなら話は別だ。
今回、初めて彼らのことを書いてみようと思う。
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私は中学生の頃から彼らのファンクラブに入っているのだが、
高校1年生で参加した会員限定ライブのことを今でも思い出す。
自分が入会してから初めての、待ちに待った限定ライブ。
日付を見た瞬間、一瞬脳裏に「テスト3日前...…」という不安が浮かんだが、
よく見るとなんと今回はデビューアルバムを全曲演奏するとのこと。
即決だった。
当日、初めての土地にひとりで足を運んだ。
会場に近づくとどこからともなく現れる、
すごく見慣れたロゴの入ったTシャツやトートバッグを身に着ける全く知らない人たち。
親近感と緊張感が二層に分離しながら胸の内で搔き混ざる思いがする。
2月の名残を感じる夜空の下、
開場を待ってひとかたまりになる私たちを硬い風が撫で上げていく中で、
私は手元の単語帳の上で目を滑らせ続けていた。
いつもライブ前のこの時間は、
髪を振り乱して熱狂している30分後の自分をとても遠くに感じる。
列が動き、入場が始まった。
いつ求められてもいいようにずっと手にしていたせいで少し皺が寄ってしまったチケットと、
最近リニューアルしたばかりのファンクラブの会員証を手に進む。
自動改札のような機械に会員証をかざすと、
レシートらしき紙が出てきた。
恐らく席の位置などが書いてあるものだけれど、
チケットを見過ぎて内容を暗記してしまったので今は必要ない、
今回は1Fスタンド席だ。
適当にたたんでポケットにしまい、
何よりも気になる会場の内部をぐるぐると眺め回した。
普段は座席が決まっているが、
今回の会場はオールスタンディングのライブハウス形式。
いざスタンドに足を踏み入れると、本当に面食らう。
舞台が近すぎる。
これじゃまるで親戚のおじさんとの距離じゃないか。
開演まであと15分。
単語帳どころかTwitterやLINEすら頭に入らない。
腕を組んでみたり、
ドリンクを飲んでみたり、
ポケットに手を入れたりしていた時、
ふと先ほどのレシートが指先に触れた。
何をしても落ち着かないならいっそレシートでも読んでやるか。何気なく開いて目をやってみる。
その瞬間、
見えない閃光が目の前でバチッと弾けたような気がした。
そこには2つの異なる手書き字体の複製で、こう書かれている。
「あらあら若いのに来てくださった。あなたたちとはたくさん年の差があるけれど、同じ時間を共有するこの機会がうれしいよ。」
「君、未成年だろ!早く家に帰りなさい!」
16歳だった私の頭の中で、
ずっと何か遠くを見つめていた彼らが、
ふと気が付くとこちらに目をやっている。
彼らが、こちらを見ている。
「初めて目が合った」と思った。
そう、この紙はしょうもないレシートなんかではなく、
会員証に登録されている情報を基に、
彼らが個別のファンに送ったメッセージカードだった。
10代の私には「早く家に帰れ」、
当日が誕生日の人には「おめでとう」。
ファンが共有する文脈を背景に、
それぞれの言い方で「来てくれてありがとう」と伝えてくれていた。
ふと周りを見渡すと、
手元の紙に目を落として固まっているのは私だけではないようだった。
この直後に照明が落ちて、
そこから始まったライブはもう、言うまでもなく最高でしかなかった。
のだけれど、このライブで今も一番忘れられないのはこのメッセージを見た瞬間だ。
帰り道、何度も手書きの字を読み返した。
その度に彼らの目を見て「素晴らしいライブでした」と伝えられているような気がして。
この記事を書こうと数年ぶりにこの紙を保管箱から取り出してみたのだが、
あの時くっきりと黒く印字されていた手書きのそれは、
7年の時間を経てもうずいぶん薄くなっていた。
完全に見えなくなる前に、これが書けて良かったと思う。
次に彼らと目が合うのはいつだろうか。
その時を思うと、心の芯が小さく震えるのを、いつも感じる。
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みなさんの「推しと初めて目が合った瞬間」はいつですか?
それを思い出してもらいながら、良ければ最後に、私が一番最初に好きになった彼らの曲でも聴いていってくださいよ。
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