映画『バジーノイズ』レビュー|青春群像劇と音楽映画、二つの側面から考察!

こんぶ

kikusukuライターの「こんぶ」です。アイドルとドラマとお酒を飲むことが好き。ラジオもよく聞く。好きが多すぎて、毎日忙しなく生きてます。

2024年5月3日に公開された映画『バジーノイズ』は、むつき潤の同名漫画を実写化した作品で、川西拓実(JO1)桜田ひよりがW主演を務め、2022年に社会現象となったTVドラマ「silent」の監督、風間大樹がメガホンを取った。

更に、藤井風やiriの楽曲を手がけるYaffleがミュージックコンセプトデザインを担当したことでも注目の作品だ。
今回は本作を”青春群像劇”と”音楽映画”、二つの側面から考察したレビューをお届けする。(以下、ネタバレを含みます。)



何もいらない。頭の中に流れる音を、形にできればそれでいい。

そう思っていた清澄は、好きなこともやりたいこともなく、他人の「いいね」だけを追いかけてきた潮に出会う。

「寂しくって、あったかい」清澄の音楽に初めて心を震わせた潮は、たくさんの人にそれを届けたいと、SNSでバズらせる。

潮に導かれバンドを組んだ清澄が、仲間と音を創り出す喜びに目覚めた時、突然、潮が姿を消す。

心に開いた空洞に、どう対処していいか分からない清澄を、音楽はさらに新たな道へと導こうとしていた──。

https://gaga.ne.jp/buzzynoise_movie/about/ 映画『バジーノイズ』公式サイト(アクセス日:2024-05-20)


一人でいるか、仲間といるか......”圧倒的共感”を呼ぶ、人間模様

映画『バジーノイズ』は、清澄(演:川西拓実)の音楽に心奪われた潮(演:桜田ひより)が、清澄の部屋の窓ガラスを叩き割る鮮烈な展開から幕を開ける。

窓ガラスが物理的に割れると同時に清澄の心のバリアも割られ、半ば強引に清澄の世界に足を踏み入れてきた潮。それを皮切りに、音楽仲間の陸(演:栁俊太郎)航太郎(演:井之脇海)岬(演:円井わん)と出会い、人と関わりを持たずただ一人、頭に流れる音を形にしていた清澄の日常が変化していく。

この映画は一見、清澄の成長をメインに描いているように思えるが、そうではない。極端かつ大胆な行動で清澄たちを導いていく潮、満足のいく音楽活動が出来ていなかった陸、バンドを脱退し一人で活動していく決心を固めていた岬、バンドと会社の板挟みでうまく立ち回れないことが多い航太郎......他の登場人物も清澄と同じように問題を抱え、生きづらさと葛藤しながら、自分の居場所を選び、やりたいことを叶えていく姿を描いた作品だ。

生きるのが下手な人々が”音楽”を通じて出会い、迷いながらも互いに導き合う”人間模様”は、この映画の醍醐味の一つだ。関係性を深めていく中、他人のことがわからなくなったり、関係性が歪んだり、孤独に塞ぎ込んでしまう時間をも繊細に描くことで、人と人の関わりによって生まれる”化学反応”がより丁寧に映し出されている。

また、人と関わることで得られる充実感や変化を描いた上で、”一人”であることを否定しないところは、この物語の持つあたたかさであり、観客にとっても救いとなる描写だ。

特にその温度感が伝わるのは、スタジオに籠り一人で音楽を作り続けている清澄を、潮と航太郎、陸が救い出すシーンだ。

この時、潮たちは会社の利益のために利用される形で次々と作曲依頼を受け、専用スタジオで孤独に音楽を作っていた清澄を取り戻そうと動き出すが、最終的には「清澄はどうしたいのか」を確かめるためと言って清澄に会いにいく。

陸「あいつが望んでそこにいるなら、喜んで背中を押すよ」

潮「一人がいいんやったら、それでええ。誰も否定せん」


彼らは清澄と関わりたいと思っているが、清澄がそれを望まないならば、一人でいたいと言うならば、その生き方を肯定しようという姿勢は、何よりも清澄のことを想っている証拠だ。

清澄「一人でも音楽はできる。でも今は、少し騒がしい場所もええかなって思ってる」



この映画の結末では、人と関わることの煩わしさ苦しみ、そして喜びを知った清澄が、好きな音楽で繋がる仲間との日々を選び、航太郎、陸、岬も清澄と共に音楽を続けていく。一方の潮は、清澄たちのそばには居ないけれど、決別したわけではなく、心にいつも清澄の音楽を置きながら自分の道を歩んでいく。

清澄たちがそれぞれ自分らしい選択をし、居場所を見つけていった姿は、現実を生きる観客にとっての光だ。どれが良いかではなく、”それぞれの選択を肯定するあたたかさ”があるこの映画は、単に「青春群像劇」と称するにはあまりにも言葉足らずで、観客の生き方も肯定してくれるような"救い"のある結末へと着地する。


音の説得力、リンクする音楽と感情

そして、この映画を語る上で欠かせないことが””についてだ。

まず取り上げるのは映画冒頭、清澄が自身の部屋でDTM(desk top music)を使い、曲を制作していくシーンだ。ここでは、スマホで録音した木の葉が擦れる音をサンプリングし、コードやメロディー、ベースラインと音が重なり、連なり、清澄の頭の中の音が形になっていく様子が描かれる。

この作業工程を見せることで、清澄の言う「一人でも音楽はできる」ことが音楽に詳しくない観客にも伝わるだろう。そして、このシーンがあることによって、陸のベースや岬のドラムが入ることで得られる”音の変化”が強調される。

陸とセッションをするシーンでは、清澄が作った曲に合わせて陸が演奏し、それを受けて清澄も演奏を返し、互いに触発されて音を鳴らしていく姿が映される。一人では味わえない、人と音楽をやる醍醐味が伝わるだろう。

岬がAZUR(清澄と陸のバンド)の音源作りを手伝うシーンでは、ドラムの音圧に圧倒される。劇中に清澄が一人で作った音AZURの音を比較するセリフがあるが、陸と岬の演奏を聴いたことで、そのセリフへの説得力も増している。

また、音楽だけではなく”無音”や”環境音”もかなり効果的に使われている。例えば、序盤は音数の少なさ静けさが目立つが、それは清澄の生活のシンプルさ、心のノイズの少なさを思わせる。対して、ガラスが割れる音ドアが開く音などの鋭い音は、物語が展開する瞬間に聞こえる音だ。

特筆したいのが先ほども触れた「スタジオに籠り一人で音楽を作り続けている清澄を、潮と航太郎、陸の3人が救い出す」シーンだ。潮が想いを打ち明け、清澄の本心を訊ねると、清澄は苦しそうに涙を流しながら、爆音不協和音を鳴らし始める。その音の”唸り”こそ、清澄の心の中で複雑に絡み合う葛藤を示しており、序盤のシンプルな音と対比しても、心のノイズが騒がしいことがよく分かるだろう。そしてその後、音が止み、一瞬の静寂の後に聴こえるドアが開く音こそ、清澄が選択を下し、前に進み出した合図である。

清澄の心のノイズはオシロスコープで視覚的にも示されており、その時流れている音が清澄の心のノイズとリンクしていることが分かる。

繊細な音に耳を澄ませ、音楽に身を預けることで、この物語により感情移入することができるだろう。


ラストシーン、エンドロールで流れる主題歌「surge」

“誰もが同じ弱さ 隠して手探りのまま 今を生きてる”

「surge」清澄 by Takumi Kawanishi (JO1) 作詞:いしわたり淳治 作曲・編曲:Yaffle


主題歌の「surge」は、物語の2年後にリリースされるAZURの新曲だ。この曲は他人と関わらず、一人で生きていた頃の清澄には作ることのできない曲で、映画では描かれていない時間も含め、清澄の成長や心境の変化が伺える。

ラストのライブシーンで演奏される「surge」は、主題歌として配信されている音源ではなくライブバージョンが使われている。そのおかげか、まるで映画館をライブ会場かのように錯覚させ、AZURのライブに来ているような没入感ライブ感を味わうことができる。歌声のあたたかさ楽器の音圧を全身で受け止め、感情を揺さぶられていく感覚は、映画館で『バジーノイズ』を観た人にだけ与えられるご褒美のようだった。

「surge」はスクリーンの中で描かれた登場人物たちの姿を思い浮かべられると同時に、観客それぞれの日常にも投影することができる楽曲だ。

清澄が曲に込めた想いを受け取り、映画館を後にした人々の足元は、きっと少し軽くなっていただろう。




映画『バジーノイズ』公式サイト https://gaga.ne.jp/buzzynoise_movie/
バジーノイズ(オリジナル・サウンドトラック)https://open.spotify.com/intl-ja/album/4Ivi7HH61ltfTzQ6E3z5po?si=X_nUagKYQ3O7jN3B7GBE9A

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