『くしゃみのふつうの大冒険』#02
くしゃみの興味
くしゃみは、頭を抱えていました。
シマウマは、白地に黒シマなのか、それとも黒地に白シマなのかが気になって仕方がないのです。
くしゃみは、以前駄菓子屋さんで仲良くなったシマウマの娘さんに訊くことにしました。
シマウマの娘さんは、入れたコインをゴールの穴まで弾いていくカーレースの筐体ゲームが得意でした。その熱中ぶりは、駄菓子屋さんの近くを通ると必ず立ち寄るのはもちろんですが、目的地が反対の方向でもわざと遠回りをして行くほどなんですよ。
さて、くしゃみは、今日もきっとシマウマの娘さんは駄菓子屋にいるだろうと思い、森の中を歩いていました。駄菓子屋さんは、フカチの森の真ん中にあったのでくしゃみの家からはそう遠くはありません。
その道中も、くしゃみは頭を抱えていました。というのも、シマウマは白の範囲の方が多い印象が強くて黒シマは模様に見えてくるのですが、その模様らしき黒シマを見ていると今度は黒の範囲の方が多い気がしてきて白の方がシマに見えてくるからでした。
そうこうしていると向こうからシマウマの娘さんがやってきました。どうやら駄菓子屋さんからの帰りのようです。筐体ゲームで勝ち取った30円券と引き換えた風船ガムを噛んでいます。
シマウマの娘さんがくしゃみに「こんにちは」と挨拶をしたので、くしゃみもシマウマの娘さんに「こんにちは」と挨拶を返しました。そしてくしゃみは、まるで前から疑問に思っていたことをふっと思い出したかのように装ってシマウマの娘さんに例の質問をしました。鼻息を荒くしながら質問なんてしたら気味悪がられてしまいますからね。
しかし、シマウマの娘さんは、「そんなこと考えたこともなかった」と言いました。自分にとってはあまりにふつうのこと過ぎたのです。
くしゃみはシマウマの娘さんに、「じゃあ、君の白シマと黒シマ、どっちが多いか数えてみようよ」と提案をしてみました。
シマウマの娘さんは、「それはなんだか楽しそうだね」とぴょんぴょこ飛び跳ねましたが、ほんの数秒後にはハッとしたように動きを止めました。友だちのチーターの娘さんと追いかけっこをしにいく途中であったことをすっかり忘れていたのです。
シマウマの娘さんは、「家に帰ったら数えておくよ」と約束をしてくれました。
ですが、くしゃみは知っていました。誰かが「やっておくよ」と言うとき、それは「やらない」ということを意味するのを。
くしゃみは、駄菓子屋に行くことにしました。それは悩みの答えを先延ばしにされたモヤモヤを晴らすためでした。
しかし、そのモヤモヤは夜眠るまで残りつづけ、カーレースの筐体ゲームに入れたコインも“コースアウト”や“オーバーヒート”などと書かれた穴に吸い込まれていくだけでした。
さて、後日談にはなるのですが、実はシマウマの娘さんは、わざわざくしゃみの家までやってきて、自分が白地に黒シマのシマウマであったことを教えてくれたんですよ。
くしゃみは、「なんてこった、これは大発見だぞ!!」と腕を大きく広げながら、シマウマの娘さんと一緒になってぴょんぴょんぴょんぴょん飛び跳ねました。
でも、実のところ、くしゃみはシマウマの娘さんの約束をすっかり忘れていました。その頃にはもう、くしゃみの興味は別のことに向いていたのです。それは、ドーナツの穴の部分はドーナツと呼べるのかということや、水の中にずっといれば「濡れる」ということはないのではないかというようなことでした。
まぁ、興味なんてそんなものですよね。
作・絵 池田大空