『くしゃみのふつうの大冒険』
はじめに
はじめまして。
池田大空(いけだひろたか)といいます。 自己紹介をするときには、普段「映像研究家/映像作家など」と名乗っています。映像身体学と映画学を専門に研究していることから、それが最も表立った良い名札になっているんです。
ただ、「など」の方にも色々な名札が詰まっているんですよ。例えば、物語小説を執筆したり、絵を描いたり、舞台演劇の演出をしたり、自分が演者として出演したり、と色々なことをやっています。
ありがたいことに「映像作家」の名は、前に出てきています。
実はこれまで世界各地さまざまな場所で、わたしの映画が上映されてきたんですよ。
映画は、実写もアニメーションもどちらもつくります。ただ、それぞれ描き方はちがえど、伝えたいことはいつも同じです。それは、「映画の根源的な楽しさ」、つまり、「動くことの感動」です。
では、今回のような文章の場合はどうなのかと思われるでしょう。
実は文章で伝えたいことも「動くことの感動」なんですよ。
もちろん、映画と文章はまったくちがいます。文章における「動くこと」とは、それを読んでいて頭の中でイメージがどんどんと展開されていく、ということです。
しかし、正直なところ、わたしはこれから先、ここで自分の思い出や考えをみなさんにお伝えしていくことにあまり気が進みません。例えば、赤ん坊の頃に市民プールでお漏らしをしてしまい、清掃のためにプールを一日中使えなくさせてしまったなんてことを記したら、町中で「お漏らしの人」と指をさされてしまいかねませんからね。
あらっ、そんなわたしのことを知ってか、誰かさんがわたしの脇腹をつつきましたよ。きっと自分の話をしてほしくて仕方がないんですね。
みなさん、ご紹介しましょう。山椒魚のくしゃみです。
ほらっ、くしゃみ。少しは落ちついてみなさんにご挨拶なさい。
ということで、みなさん。これからきくすくに掲載されていくのは、わたしの物語ではありません。この山椒魚のくしゃみの物語です。
わたっ……、おやおやっ、くしゃみが何かこしょこしょ伝えてくれましたよ。
みなさん、くしゃみは今朝おうちの前でどんぐりを拾っていたら、そのひとつからちいさなムシさんがひょこっと顔を出して「おはようございます」と言ってきたそうです。ですから、くしゃみは「おはようございます」と返事をして、おひるにお誘いしたそうですよ。
ムシさんは、いまのどんぐりのおうちから引っ越したいらしく、明日の午後にはマツボックリのおうちをさがしに行くそうです。
くしゃみも一緒に行きたかったのですが、ムシさんは自分一匹でさがすと断ったそうで、いま彼は少し残念そうにうつむいています。でも、「ムシさんはどんなおうちに住むんだろう!!」と言うと、わたしの服を引っ張ってぴょんぴょんぴょんぴょん跳びはねだしましたよ。
さて、これからみなさんには、このようなくしゃみのいたってふつうの大冒険の数々をお伝えしていこうと思います。なんだこの恐竜みたいな生き物とは思わずに、楽しんでいただければ幸いです。
作・絵 池田大空