未知の音楽に身を曝すということ ―「図書館ディグ」のすすめ!

この前、もうすぐ成人するという知り合いの人に
「10代のうちにやっておいたほうがいいことって何かありますか?」
と訊かれました。

相談に向いていない天邪鬼成人は
「ないない!20代も結構楽しいからそっちの方楽しみにしときな!!!!」
みたいないつものド無責任返しをしてしまったのですが、
それからしばらく胸に何か引っかかったような感覚がありました。

基本10代で血肉にしたものはすべて活きると本当に思っている節もあるから「ない」でもいいような気がするけれど、何かあったような……

そのまま帰宅し、
手を洗って、うだうだYouTubeを見てから服をぽんぽん脱ぎ、
シャワーを浴びたところで思い出しました。

私が皆さんに、特に10代の人に勧めたいなと思っているのが「図書館ディグ」です。

「図書館ディグ」とは

「図書館ディグ」自体は私の造語ですが、
そもそもディグは音楽を能動的に探究する行動を指す言葉です。
今やサブスクで簡単にできるようになったものの、
敢えて舞台を図書館にするところにこの遊びの意義があります。

そもそも本のイメージが強い図書館でも、
市区町村によってはDVDと合わせて「AV資料」「視聴覚資料」などの呼称で
充実したCDの棚が置かれているところも。

「図書館ディグをする……」
と決めたらまずはその棚の前に行き、
ネットリサーチなどはせず直感だけでCDを借りられる限界まで手に取りましょう。

ジャケットデザイン、
アーティスト名、
アルバム名、
曲名、
歌詞カードに印字されたフォントやそこに写る人の顔など、
手に取る理由はなんでも構いません。

そしたらそれをすべて借りて、
図書館備え付けのCDプレイヤーや
家のオーディオプレイヤーなどで
なるべく早くそのCDを聴ける環境に行きます。

どのCDから聴くか決める時もリサーチはせず、
これまた直感でCDを選んで機器にセットし、再生ボタンをポチ。


その後どんな音が聞こえて、
どんな気持ちが巻き起こるのかは、
やってみてのお楽しみです。



CDの返却期限までの間、好きな曲を聴きこむもよし、
よくわからんアルバムを「よくわっかんねぇけどよ……」という気持ちで咀嚼し、何かしらの理解を手にしようとするもよし。
地味~な営みですが、これが意外と新鮮なインプットとして響いて、自分の中の何かを変えることもあります。

そうこれはまさに先日、
kikusukuライターのあだちがコラムの中で紹介していた、サカナクション山口一郎さんの言う「探す遊び」に近いですね。

「あえて自分で選ばない」ということ ~訪れるものに開かれる・実践編~

前回、「訪れるものに開かれる」というテーマで記事を書いていきました。おさらいすると、個々人の主体的な選択よりも世界から自らに降りかかってくるものを引き受けてい…

CDショップでの「探す遊び」は
身銭を切るという点でハードルがありますが、
図書館だといくら借りようともお金がかからないので、
入口としてもいいかもしれません。

ただ無料の代わりに
手元に置いておける期間は限られているので、
もっと時間をかけて向き合いたい作品に出会えてしまった場合、
結局CDショップに行くことになる人もいると思います。

図書館と音楽と没頭

私がこれに没頭していたのは今から10年くらい前、
サブスクもディグという言葉もまだなかった中学生の頃です。

当時から何かしらの表現を仕事に絡めたいと思っていた私は、
当時一番心酔していた表現である音楽関係の職業について勉強していました。

そんな中、度々目にしたのが
「優れた音楽家になりたいのなら、とにかく様々な音楽を聴くべきだ」
という先人たちからのアドバイスです。

大好きなバンドはいてもいい。
でもそれ以外の音楽をジャンルや年代問わず、先入観なく、たくさんインプットすることは良いアウトプットに繋がる。

そんな内容が多かったと思います。

当時ポルノグラフィティに傾倒していたので
浮気のような罪悪感を感じつつも、
まずは図書館で色んなCDを借りるところから始めようと、
先述の遊びを半ば勉強の気持ちで始めたのでした。

一番最初に手にしたのは、椎名林檎さんのCDです。

当時とにかく芸能に疎かった私は、
テレビで見かける林檎さんのオーラの凄みを咀嚼することが出来ず、
漠然と「怖い」という先入観を持っていました。
どんな曲を歌っているのかも知らないけれど、飛び込もう。

そう覚悟して借りたのが、
シュッとしたジャケットが印象的な
バイオリニスト齊藤ネコさんとのコラボ盤
「平成風俗」と、
今思えば超メジャーチョイスの
「無罪モラトリアム(一番ジャケットが怖くて逆に気になった)
でした。


平成風俗をセットして、再生ボタンをポチ。

数秒の無音の後、
突然目の前に飛び降りてきた猫の着地音のように
スネアドラムの音が転がってきました。

その後に押し寄せてきたのは、
今までに触れたことのない美しい音の濁流と、
ドライフラワーを音にしたような林檎さんの声。
この時点で
「とんでもない世界に足を踏み入れてしまった……」
と気付いたのです。

夢中で次の無罪モラトリアムに手を伸ばし聴いてみると、
今度は平成風俗とも全く違う、
まさに私の「怖い」という先入観の解像度すらグンと上げてしまうくらい攻撃的で先鋭的な音や声の数々。
でもその間に見え隠れする
林檎さんの揺らぎや郷愁を追いたくなってしまう、
生まれて初めての音楽体験でした。

それからというもの、
毎週図書館に通っては限界までCDを抱え、帰って聴き、返してはまた限界までCDを借りるという生活を
中高生時代の長い期間に渡って続けました。
ジャケットで期待した割に
聴いてみると「なんか不快だな……」しか感想が浮かばない時もあれば、
一曲目からぶん殴られる時もあり、
いつぞやの「不快」が再会してみたら
それがツボになっていたこともありました。

結果的に私は音楽を仕事にしませんでしたが、
あのタイミングで触れた音楽は
サブスクのレコメンドでは出会えなかったであろうものばかりで、
今も私の心を震わせてくれています。

流行りのJポップJロックから、
歌謡曲の中のアイドル、
ドラマのサントラ、
コントトラック、
クラシック、
ジャニーズやK-POP、
海の向こうのダンスミュージック。

それぞれの音の片鱗が
文章や写真の細胞の中に入り込んでいるのを感じることもありますし、
鹿野結子という人間の立ち振る舞いにも
影響を与えているような気がします。

中学で自分をうまく表現できず燻っていた時も
「図書館に行けば未知との出会いがあって、その度に自分が拡張されていくんだ」
という感覚がへなへなの自信を補強してくれていました。

感受性のスポンジがしみしみになるまでいい作品と出会い、それが自分の一部になっていく。いくらお金を払っても替えられないような贅沢ですね。

何かを始めたくなるこの季節、
洗いざらしの心に何か面白いものをぶつけてみたいと思う方に図書館ディグ、お勧めです。

ここまで読んでくれた方へのおみやげとして、
私が過去に図書館でアッパーを食らった曲をプレイリストにしてみました。

そのまま聴いても面白いように組んでありますが、気が向いたらぜひシャッフルで、イントロが終わるまでは曲名を見ずに楽しんでみてください。ピース✌

私が図書館で会った曲たち

各サブスクサービス用プレイリストはこちら↓

Spotify 

Apple Music 

Amazon Music


ギャンブル / 椎名林檎
歌舞伎町の女王 / 椎名林檎
ねこラジ / 神聖かまってちゃん
シンデレラ / 相対性理論
球体関節 / キノコホテル
雨を見くびるな / キリンジ
prelude ~ ESCAPE / MOON CHILD
Thank You / スガシカオ
スカート革命 / アーバンギャルド
美しく燃える森 / 東京スカパラダイスオーケストラ( feat. 奥田民生 )
遭難 / 東京事変
スローモーション / 中森明菜
色彩のブルース / EGO-WRAPPIN'
弦楽セレナードハ長調 作品48 第1楽章:ソナチネ形式の小品(チャイコフスキー) / サイトウ・キネン・オーケストラ,小澤征爾
YUMEGIWA LAST BOY / スーパーカー
振動覚 / ASIAN KUNG-FU GENERATION
アーモンドのチョコレート / ゆらゆら帝国
SNAKEMAN SHOW [3] ~ CITIZEN OF SCIENCE / YELLOW MAGIC ORCHESTRA (feat. スネークマンショー)
Sunny Day Sunday / センチメンタル・バス
Virtual Insanity / Jamiroquai
ロックンロール・ウィドウ / 山口百恵
京都の大学生 / くるり
どぉなっちゃってんだよ / 岡村靖幸

※()内は筆者が補足しました

recommends‼

「あえて自分で選ばない」ということ ~訪れるものに開かれる・実践編~

ライター:あだち

「私の中の卒業ソング」集めました〜kikusuku3月のプレイリスト

あの頃の生き方を

ライター:鹿の子

悲しくない卒業があってもいいよね

kikusuku公式LINE、友だち募集中!

友だち追加
公式LINEでは、おすすめ記事を紹介!

kikusuku公式SNSでは、サイト更新情報をお知らせ!

この記事を共有する↓

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください