『くしゃみのふつうの大冒険』#16

くしゃみの出生

くしゃみは、自分の本当の両親を知りませんでした。

めんどうな手紙のやりとりをしているパパさんは、本当の父親ではありません。

信頼して放っておいてくれているママさんも、本当の母親ではありません。

２匹とも養親です。

ゴムのような体をしたお兄さんは、以前ご紹介したように、くしゃみの「実の」お兄さんです。

といっても、本当のところ、それも事実かはわかりません。

というのも、ママさんとパパさんに拾われるよりも前のことは、誰にもなにもわからないからです。

ママさんとパパさんの話によれば、くしゃみとお兄さんは、ピクニック用のバスケットに入れられて、故郷の森で１番高い丘の上に立つ一本松のてっぺんに乗せられていたそうです。

はじめて２匹を見たときからママさんとパパさんは、くしゃみとお兄さんがいわゆる一般的な山椒魚とは異なることには気がついていました。

しかしながら、その「異なること」は、ママさんとパパさんには、他の誰にもありえない「特別なこと」に思われて、すっかり可愛く見えたのでした。

それでもやはり、この２匹の赤ん坊たちが、どこからやってきたのか。一体なんの経緯があって捨てられたのか。他にも兄弟姉妹はいるのか。なにものなのか。ということは、少しばかり気になりました。

しかし、これらの問いを探ろうとしても、どこでなにを調べて良いのかさえわかりません。

ママさんとパパさんは、一本松の周辺を散策して、なにか２匹の出生に関する手掛かりがないかと探したり、近くに暮らす生きものたちに聞き込みをしたりしましたが、結局なにもわからずじまいでした。

でも、わからなければわからない分だけ、ママさんとパパさんには、なんだかこれが奇跡的な出会いに思えました。

くしゃみとお兄さんは、自分たちの本当の両親については、特に知りたいとは思っていませんでした。

ママさんとパパさんだけが、くしゃみとお兄さんの母と父なのです。

それにもしも、本当の両親に育てられたとしても、良い家庭環境にいられるとは限りません。

どんな理由があったにせよ、まだ赤ん坊のくしゃみとお兄さんを捨てるような両親です。そんな考えが思いつく生きものに育てられなかったのが幸いとも思えます。

しかし、それでもやはり時々は、なぜ自分たちは捨てられたのかということや、自分はこの世に生きるに値しなかったのか、ということを考え込んでしまうことはありました。

また、自分たちの出生について知りたいこともありました。

特に、自分たちの誕生日がわからないことは、２匹にとって大問題でした。

というのも、お祝いのケーキやプレゼントをもらうことも、みんなで一緒に特別なパーティーを開くこともできないからです。

ママさんとパパさんは、くしゃみとお兄さんと出会った日を彼らの誕生日にすることも考えました。

しかし、それではあまりにも安直で、お祝いされても素直に喜ぶことができないような気がしました。それに、２匹一緒にお祝いすることになるので、せっかくのお祝いを無理にまとめてやるようであまり特別感がありません。

といっても、それ以外には、誕生日を思いつきませんでした。

好きな数字で決めるわけにもいきませんし、パッと思い浮かんだ数字にするわけにもいきません。意図的に決められたものではなくて、やはり、特別な出来事が偶発的に起きた年月日であるべきな気がします。

そう思うと、やはり２匹の誕生日は、あの一本松の木の上でママさんとパパさんと出会った日が最も適当に思えました。

確かに、くしゃみとお兄さんの生きる価値が、この世に色濃く浮かび上がり始めたのがあの日だと考えれば、それはある種「誕生日」だといえるのかもしれません。

それに、２匹で同じ誕生日だと、その分ケーキは特大ですしね。

さて、くしゃみは今日も、パパさんにめんどうな手紙を書かなくてはなりません。

先日出会ったあの老カエルに関しての手紙に返事が届いたのです。

老カエルに関してパパさんは、「知らないなぁ」、「会ったことないなぁ」とだけ記して、「アオガエルの娘さんと恋に落ちたことはあったぞ」とどうでも良い話をしやがりました。

なのでくしゃみは、アオガエルの娘さんの話は無視して、老カエルについては、「へぇ~、そっかぁ。知らないかぁ」とだけ返事をすることにしました。

こうしたことをお話の最後に記すと、めんどうくさがりながらもくしゃみがどこか、パパさんとの手紙のやりとりを楽しんでいるように思われるかもしれませんね。

しかし、くしゃみは、楽しんでなどいません。

本当にめんどうなのです。 本当に本当にめんどうなのです。

作・絵　池田大空

『くしゃみのふつうの大冒険』
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