田邊(演:要潤)は、もう一人の万太郎(演:神木隆之介)だった?ーー日本植物学の父たち【朝ドラ『らんまん』第20週レビュー】
第20週『キレンゲショウマ』(8月14日~18日放送)
第20週レビュー 〜変わりゆくものと「永遠」〜
月日は流れ、緩やかに、確実に「変化」が起きていた。
万太郎(演:神木隆之介)と寿恵子(演:浜辺美波)の間には新しい命が生まれ、万太郎は全国に「同志」を持った。
藤丸(演:前原瑞樹)は大学を卒業。佑一郎(演:中村蒼)はアメリカから帰国。
十徳長屋の住民たちは、それぞれが新しい暮らしを手に入れ、次々に長屋を旅立っていった。
万太郎たちは、丈之助(演:山脇辰哉)が使っていた部屋を新しく借りる。ますます借金は膨らむ。
森有礼(演:橋本さとし)は暗殺され、女学校は廃止される。
「今やっと、やりたいことだけに……旦那様の学問に戻れるのではありませんか!」(聡子)
失意の中にある田邊(演:要潤)に、妻の聡子(演:中田青渚)は力強く声をかける。森への恩もあり、政治の世界にどっぷりと身を浸していた田邊だが、元々はただ植物学を研究したい、それだけだった。
聡子の支えもあり、植物学に邁進できるようになった田邊は、学生たちと共に生き生きと植物採集に出かけ、新種の研究に勤しむ。その目や表情は輝きを取り戻していく。その情熱は、どこか万太郎を彷彿とさせる。
時を同じくして、田邊と同じ植物を検定していた万太郎。
しかし、万太郎は現地に行くこともできず、一つの標本から得られる情報の中で、一人研究を進めている。一方の田邊は、自分の目で見、人手もあり、十分な資料も持ち合わせている。
かつて、田邊が政治に追われ、植物学に時間を割くことが叶わない中、教室でひたすら植物を研究していた万太郎。
家族があり、小さな子どもを抱え、お金のない今の万太郎ならば、当時の環境がどれほど有り難いものであったか、身にしみて分かることだろう。
「おめでとうございます、田邊教授。」(万太郎)
それは清々しい敗北宣言であり、万太郎が「今の自分」を受け入れた言葉でもあったのかもしれない。そして、田邊がようやく「名付け親」となり、報われたことを、植物を愛する同志として心から祝福したのだろう。
しかし残念ながら、大学とは「学問をする」だけの場所ではない。田邊は突如、教授職を罷免される。田邊が植物学を疎かにしてまで学内政治に取り組んできたのは、自分が「学問を続ける場所」を確保し続けるためでもあったのだ。その闘争に敗れた今、彼の居場所は奪われてしまった。
「それでもシダは、地上の植物たちの……始祖にして永遠」(聡子)
それでも、田邊が日本の植物学の始祖であることに変わりはない。田邊が作った植物学教室で、万太郎は成長し、徳永(演:田中哲司)や大窪(演:今野浩喜)が植物の面白さに目覚め、野宮(演:亀田佳明)が技術を磨き、波多野(演:前原滉)のような「未来」が育っている。
「今、旦那様が始めた学問には続く方たちがいます。あなたが始めたんです!」(聡子)
ただ、植物のことをもっと知りたい。学問を究めたい。
それだけのことなのに、現実は「それだけ」では回らない。そこには権力も財力も必要なのが「社会」だ。「究める」とは、とてもとても困難なことで、一人で全てを担えるわけはないのだろう。
高知の植物に強い人がいて、植物の絵を描くことに長けている人がいて、植物の見えない部分を得意とする人がいて、資金繰りを預かる人がいて、
植物学を日本に持ち込み、その基盤を作った人がいた。
その事実は、永遠に変わらないのだ。
「西洋の植物学者諸氏に告ぐ。(中略) だがもはや、日本の植物学は貴殿らに後れを取るものではない。今後は、欧米の学者は頼らず、日本人自らが自分で学名を与え発表すると、ここに宣言する。」(田邊)
レビューあと書き
長屋のみんなが次々と旅立って行って、寂しい始まりの第20週。
時は流れ、いつの間にか万太郎が不自由に、田邊が自由に学問をするという、以前と反転した二人の様子が描かれていました。二人の植物に関する知識や情熱はずば抜けていて、二人が大学の植物学教室で共に研究を研鑽し続ける未来があったなら、どれほどの発見が生まれていたのだろう……と想像せずにはいられませんでした。
佑一郎くんが見てきた人種差別の話や、女学校が廃止になったことも印象的でしたね。万太郎たちの借金も膨らんでいて、今週は「学問」と「社会」の関係について多く考えさせられました。
そんな中、すえちゃんのたくましいこと!!!借金取りを追い返すどころか、追加の借金まで取り付けて、なんたる手腕……。すえちゃんの話を聞いていて、これは借金というより「投資」や「融資」なのだなと思いました。万太郎の研究は絶対に認められる!と信じ抜き、資金繰りは自分の仕事と腹を据えるすえちゃん、あなたこそが八犬士だよ〜〜〜〜!!!
細かすぎる!?「らんまん」なときめきポイント
・3年の月日を感じさせる演出が随所に現れていましたね。波多野の洋装や、植物学教室の学生たちが学ランを着ていたことにも驚きました!
・万太郎宅の紙風船!どこまで演出で、どこからアドリブなのかも気になってしまいます。
・田邊が使用していた緑の胴乱、お洒落でしたよね。埃を被っていることや、胴乱を置いて出ていくことで、観る側の想像を掻き立てる演出……お見事!
・徳永さんおかえり〜〜〜〜!とうちわを振りたいところですが、廊下で田邊と会った時の様子にどこか胸騒ぎを覚えたのは私だけでしょうか?「おかえり」と手を握った田邊の変化が胸に沁みました……
・「一日だけ、あなたをください」by 聡子〜〜〜〜〜〜〜!(うちわをブンブン振る音)
kikusuku編集長のひなたです。演劇とテレビドラマと甘いものと寝ることが好き。立教大学大学院 現代心理学研究科・映像身体学専攻・博士前期課程修了。